これから

「せっかくお店を開いた以上、自分の罪が晴れたからといってやっぱりなしでした、とたたむ気はありません」

「それではうちには戻ってこないの?」


 母上が不安そうに尋ねます。一般的に貴族の家にいながら普通にお店を経営するのは難しいです。店を続けるのであればどうしても家を出ることになってしまうでしょう。


「そこで、しばらくの間はお店を続けて、任せられる人が出来たらその方に任せようと思います」


 私が言うと、父上と母上は目を見合わせて頷きます。


「確かにそうだな。一度始めた以上、簡単に投げ出すのは良くないことだからな」

「そうね。でも、店を続けるにしてもセシリア以外に薬を作れる人を見つけるのは難しいんじゃない?」

「そうなんですよね……」


 正直なところお店を続けるだけならサリーに任せればどうにかなりそうです。

 サリーにはかなり申し訳ないですが。

 彼女からすれば急に私に誘われたと思ったら、私は次々に騒動に巻き込まれるし挙句実は貴族だったしで何が何やらという気持ちでしょう。


「ただ、私は出来ればこのままこの家に留まって薬学の勉強を続けたいと思っています。その傍ら、お店のために薬を卸したいのです」

「なるほど……そうね、どの道こんなことになったらしばらく婚約の話もしづらいことだし、それがいいかもしれないわ」

「そうだな。こんなことになった以上セシリアの相手はいい人が現れるまでゆっくり考えた方がいい。もっとも、クロードも付き合いが長く安全だとは思ったのだが」


 正直なところ私もそう思っていました。

 ただ、どれだけいい関係であっても色恋が絡むと途端に壊れることもあると聞くので、父上の男を見る目を責めるつもりはありません。

 それにここまでの事件の中心的な人物になってしまった以上、しばらくは私と婚約したいという方は現れないでしょう。


 もっとも、逆に私の名声(?)や調剤の腕を見込んで結婚を申し込んでくる方はいるかもしれませんが。


「母上もご心配おかけしてすみません。体調は大丈夫でしょうか?」

「ええ、セシリアの罪が晴れそうだと聞いた時から毎日体が軽いわ」


 そうは言うものの、よくよく見てみると母上の体は前に見た時よりも細くなっており、一時的によくなっているとはいえ、病気自体が治った訳ではないということがよく分かります。

 それを見て、私は改めて母上の体を治せるような薬を作りたいと思うのでした。


翌朝

「では行ってまいります」

「もう行ってしまうの?」


 翌朝、早速私がお店に戻ろうとすると母上が驚いたように私を見ます。

 ですが一か月以上もお店を放置してしまったので出来るだけ早く戻らなければなりません。


「はい、ですがこれからはいつでも戻ってこれますので」

「そうね。行ってらっしゃい」

「これからは何かあれば言ってくれ」

「はい」


 こうして私は父上と母上に見送られて屋敷を出て、再び馬車に乗って薬屋へと向かうのでした。

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