謝罪

「今クロード様に訊いてきましたが、クロード様はエリエ様の家では豪勢なもてなしを受けたものの、カール様の家には喧嘩腰で行ったため、お茶と果物しか食べていないようです」


 そう言えばクロードはカールとエリエの浮気を確信したと言っていました。だから恐らくカールの家には問い詰めるような雰囲気で赴いたと思うのですが、行った先でお茶とフルーツをご馳走されているというのは少し間抜けな絵面です。


 エリエにはカールとは縁を切るとでも言われてもてなされたのでしょうか。

 とはいえ、そうと分かれば犯人はほぼエリエでしょう。


「でしたら犯人はほぼエリエでしょうか。そう言えばその二人は今どちらにいるのでしょうか?」

「二人は一応自宅待機になっている。逃亡や証拠隠滅を防ぐために見張りもついているが……犯人ならどの道証拠は残していないだろうな」

「確かに、私の証言だけで犯人は捕まるのでしょうか」


 私はこの事件に対して中立な第三者とは言いづらい人物です。

 私の証言はどの程度重視されるのでしょうか。


「分からない。とはいえ話を聞く限りこの三人の間には色々あっただろうから、その辺を洗っていくうちに自然と罪が出てきそうな気もするが」

「なるほど」


 もしもカールが変な薬でエリエを落としていたのだとすればそちら方面でも何か進展があるかもしれません。

 そんなことを話しているとドアが開きました。

 そちらを見ると、何とそこに立っていたのは部屋着でまだ体をよろめかせているクロードでした。


「く、クロード!?」

「済まなかったセシリア!」


 そんなクロードは私の表情を見るなり頭を下げてきます。

 この前会った時とはえらい態度の違いです。


「僕が悪かった! エリエなんていう悪女にたぶらかされて君を嵌めたのは本当に間違いだった! 今となっては心底後悔している!」

「く、クロード様」

「とりあえずベッドにお戻りください」

「うるさい、ちょっと待て!」


 慌てて家臣たちがクロードをベッドに連れ戻そうとしますが、クロードは応じる気配がありません。

 よほど後悔しているのでしょう、私に向かって何度も頭を下げてきます。


 クロードがやったことを許すつもりは全くありませんが、元々彼はエリエと結ばれるためにわざわざ私に罪を着せたというのに今度はそのエリエに裏切られて自分が毒を盛られたのです。その気持ちを考えるとショックでしょう。


 まあ自白してくれたのは話が早くなっていいですが。


「思えば僕が病気になった時もセシリアはちゃんと僕の看病をしてくれたけど、エリエのやつはろくに看病もしてくれないし、医者にかかろうとしたら自分の理由でそうするなと言ってくるんだ。やっぱり僕のことを思ってくれていたのはセシリアだったんだ!」


 彼は涙を流しながら後悔しています。気づくのが遅すぎますし、今となってはクロードのためにあれこれしたことはもはや完全な黒歴史ですが。


「……分かりました。許すとは言いませんが、私の時の事件について真相を話してくださるのであれば私から何かを言い立てるようなことはしません」

「そ、そうか。悪かった、本当に僕が悪かった……」

「クロード様、そろそろ」


 こうしてクロードは後悔の涙を流しながら、家臣たちに引きずられるようにしてベッドに戻っていくのでした。


「あの醜態は貴族家の跡取りとしてどうかと思うが……何にせよ冤罪が晴れるのは良かったな」

「はい、それは本当にその通りです」


 父上や母上も今頃私のために色々心配していることでしょう。その不安を解消できると思えば悪くない結末です。


 ゼロに戻っただけと言えばそれまでですが、ポジティブに考えれば婚約者の本性が分かりましたし、頼りになる人、ならない人、悪辣な人など様々な人と接することが出来ました。

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