追放

 それからの動きはとても早いものでした。クロードの実家であるカンタール伯爵家は本当に私がクロードを毒殺しようとしたと信じ込み、すぐにこの事件を告発しました。私が持ってきた紅茶に毒が含まれていたことについてははっきりとした証拠が残っています。


 おそらく真相は前日にエリエが毒を仕込んだのだと思いますが、残念ながらその証拠は残っていません。

 気が付くと私に対しては身分剥奪の上王都からの追放という処分が下されていました。毒殺しようとしたにしては処分が軽い気もしますが、下手に揉めるとエリエの行為が露見するかもしれないのでさっさと追い出そうということなのかもしれません。


「すまないな、セシリア。わしの力ではどうにもならなかった」


 処分が告げられた日、父上が沈痛な面持ちで私に頭を下げます。父上は事件が起こった後に私が言い分を話すと全て信じてくれ、真相究明の調査を行うよう何度も申し入れをしたのですが、家の力が小さかったこともあり、及びませんでした。


「いえいえ、父上と母上が私の言うことを信じてくれただけでも私は幸せです」

「そう言ってもらえると嬉しいが、不甲斐ない父で申し訳ない。せめてものお詫びにこれを持って行ってくれ」

「こ、これは……?」


 父上に渡された包みを開いた私は仰天します。そこには十枚ほどの大きな金貨が入っていました。

 あまり裕福でない我が家からすると結構な大金と言えるでしょう。


「それだけあればしばらくは暮らせるだろう。ただ、大金を持っていると分かると誰に狙われるのかも分からない。気を付けて使ってくれ」

「ありがとうございます」


 私は父上に深々と頭を下げます。

 それから私は母上の寝室に向かいました。母上は元々病気がちだったのですが、今回の件を聞いて心労が祟ったのでしょう、今はベッドから起き上がれなくなってしまいました。


 元々私はそんな母上を治すために薬師の知識を勉強しようと思っていたのですが、治すどころか逆に心労をかけることになってしまい申し訳ない限りです。おそらくエリエが私を陥れる時に毒を使うことを思いついたのも、私が薬の勉強をしていたという事実があるからでしょう。


 私が寝室に入っていくと、ベッドの中の母上はすっかりやつれてしまっていました。


「セシリア……守ってあげられなくてごめんね」


 母上のか細い声でに私の胸はぎゅっと締め付けられます。


「いえ、私こそ母上に心配をかけてしまってごめんなさい」

「そんなことないわ。昔からあなたが私のために薬の勉強をしていてくれたのは誰よりも知っているわ。それなのに……」


 その先は言葉になりませんでした。


「すみません、出ていくことになってもいつか素晴らしい薬を作って必ず母上に届けます」

「いいのよ、私はあなたが元気でいてくれればそれでいいわ。色々大変なことも多いと思うけど、もし出来ることなら幸せに生きて欲しい」

「ありがとうございます」


 その後私たちは別れを惜しんでいましたが、やがて時間が訪れてしまいます。


「それでは……行ってきます」

「元気でね」


 こうして私は父上からもらったお金、そしてこれまで自分で調合した薬を持って泣く泣く家を出たのでした。

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