詫び石21つ目【クエストクリア】

 あの後、小太り貴族が気絶している間にしっかり亀甲縛りにしておいた。



「ぼきゅが悪かったってば~!! 魔法解除してよ~!!」



 本来ならこの小太りをしかるべき機関に突き出すところなのだが、残念ながらこいつは腐っても貴族。

 きっと賄賂でなあなあにされるのがオチだろう。


 と、いうことで。



「ルロちゃん。どうやって処分したい? 3枚におろす? 俺、魚を捌くのは得意だよ」

「生きたまま逆さ吊りにして焼くべきよ!」

「!?」

「そっ、そんなご主人様とアイル様は見たくありません……っ!!」

「わかった、やめるよ」

「そうね、やめてあげるわ。感謝しなさいよっ!!」



 こんな悪党にも優しい女神のようなルロちゃん。


 アイルちゃんは小太り貴族を睨みつけながら片足で地面を蹴って土をかけている。

 猫が粗々をしたあとやる仕草だ……可愛い……。



「かっ、金か~!? 金なら好きなだけくれてやるから~!!」

「……お金でルロちゃんの心の傷が癒えると思ってるのか?」

「そうよっ!! ふざけないで!!」



 地面に横たわったままの小太り貴族へさらに砂を浴びせるアイルちゃん。



「ぺぺ……っ!! それじゃあ何が望みなんだよ~!!」

「あんたの『死』よっ!!」

「な゛っ!?」

「こらこら、アイルちゃん。せっかく可愛いんだからそんな言葉はもっとオブラートに包みなさい」

「ふ、ふんっ!!」



 気持ちはわかるが、さすがに(肉体的な意味で)殺すのは躊躇われる。

 ……社会的に殺す方向なら……ふむ……。



「な、何でも頼みを聞いてやる!!」

「ん? 今『何でも』って……」

「その代わり命だけは助けてくれ~!!」

「……」



 小太り貴族に無言で歩み寄ると怯えた目でこちらを見上げてくるが、「何でもする」というその言葉を引き出せた以上もうどうこうするつもりはない。


 とりあえず亀甲縛りから開放してやろう。



「……俺は一応『勇者』だ。お前の命を奪うつもりはあんまりない」

「少しはあるのか~!?」

「何でもする、って言ったよな……それじゃあ、もう二度とルロちゃんの前に現れないと誓え」



 俺の言葉を聞いて、小太り貴族は何度も首を縦に振った。



「わ、わかった!! もう何もしない!! 追いかけない……っ!!」

「もし誓いを破ったらその時は永久に溶けない氷像にする」

「わかった……っ!!」



 アイルちゃんが心底納得できないと言いたげな表情をしているので、あとで美味しい焼き魚をプレゼントしようと思う。



「ルロちゃん、それでいいかな?」

「はい……!! ありがとうございます、ご主人様……!!」

「……753番、ぼきゅが悪かったよ~」

「ルロちゃんをそんな可愛くない番号で呼ぶな!!」

「ぎゃああああ!!」



 その後――……小太り貴族は股間が氷漬けになったまま、全裸で涙を流しつつ帰っていくのだった。

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