ソロ男子

樹 亜希 (いつき あき)

できないんじゃない、しないのだ

 誰かもっていってくれないか、僕のことも。

 チリ紙交換に出しておいた、雑誌や古い参考書などを思い切って全部捨てたものをたまたま見送った。僕の二十年をあっさりと……。


 とっくに捨てたつもりでいたけれども、たくさん読んだ本をしまう場所がないので、開けてはいけない場所に踏み込んでまるでハリーポッターと賢者の石的な感じの場所に迷い込んだ。


 小学校の先生が卒業するときにくださった色紙、環境問題をサラッと書いたら、なぜだか京都市のコンテストで賞を取ってしまった賞状などはもはや記憶にない。さて何を僕は書いたのだろうか、苦笑してしまった。


 猫の声が階下でする、あ、そうだ。まだマロに餌をやっていないことに気が付いた。


「ごめん」

 僕はマロの餌の器にカリカリを半分ほど入れるが、マロは僕を見上げて食べようとしない。

「どうした?」

 マロはしゃがんだ僕の膝に額を擦り付ける。

 どこか具合が悪いのだろうか。しばらく様子を見てみようと思う。食べない日が続くようなら、いつもの動物病院へ行かねばならない。


 単身世帯4割の世の中で、5人に1人の男性が一度も結婚することなく人生を終える時代に僕もその中の一人である。相棒はこのマロだけなのだ。マロがいなくなれば本当の意味で僕は一人だけになる。

 結婚するタイミングを逃してからは、すべてが邪魔くさくなり結婚することのメリットを見つけることができずに僕はいつしか40歳の誕生日を迎えて、次の8月で41歳になる予定である。

 28歳で愛した女性、萌々香(ももか)と別れた。

 三年交際していたので僕は結婚を申し込むつもりでいたけれど、彼女は会社の上司と浮気していた。というか、僕とその男性と二股かけていたようでそれに気が付かないまま、僕は乗り捨てられてしまった。

 三年間僕はとても幸せだった、彼女のいた時間はかけがえのない時間であったゆえに心の傷も深く、裏切りに対してのショックは僕を切り刻んだ。恋愛は両刃の刃で振り上げた限りはゴールインしない場合に別れを言い出したほうも、言われた側も血を流すと思っていたが、今回血を流したのは僕だけだった。


 それから10年以上、彼女のことは忘れたが女性と付き合うことが怖くて無理だと脳が受け付けない。だから恋愛なんかしないし、誰も好きにならない。両親がお見合いや婚活を薦めるが、僕は一人でいることを選んだ。

 というか、もう女の人が信じられない。僕は萌々香以外にも付き合った女の子はいたが、学生時代のことでそれは幼い恋のようなものだった。だが萌々香は違う、他の女性とは僕は分けて考えていた。三回の花見に、それぞれの誕生日、そしていくつもの夜を過ごしたはずなのに。萌々香は僕を裏切っていた。

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