第4話 高校時代
高校に入った道汚は、いじめられた中学の時と違い、高校デビューをしてやろうと考えていた。髪型を整え、ヘアワックスなんかをつけて格好つけてみたりした。そしていざ入学した高校では、やはり本物のイケメン達には叶わなかった。彼らは眩しすぎた存在だった。そこで道汚は、次の作戦に出た。モテる奴の基準とは、顔がカッコイイ、スポーツができる、面白い奴。当然、次に道汚が目指したのは、面白い奴だった。高校でも放送部に入った。隙あらば面白い事を言ってやろうと考えていたが、なかなかチャンスが巡って来なかった。体育祭、ついに放送部として面白い事を言う絶好のチャンスが巡ってきた。体育祭の前日は雨だった。そのせいでグラウンドが少し濡れていた。これはチャンスだと思い、放送の時に一発かましてやろうと考えていた。
「放送部の1年A組の堂島道汚です。昨日はあいにくの雨でしたが、本日は天候に恵まれて絶好の体育祭日和となりました。ですが雨でまだグラウンドが濡れています。リレーなどの時には、特に気を付けて競技を行いましょう。ちなみに私、堂島道汚の汚は、汚いという字の汚です。道が汚いで道汚です。ひょっとすると今日は僕の日かもしれません」
グラウンドから笑い声が聞こえてきた。やった。成功だ。これで僕もモテるかもと思った道汚だったが、残念ながらモテる事はなかった。
体育祭でそこそこインパクトを残した道汚だったが、転機は突然訪れた。放送部のOBで現在では、FM徳島でご当地ラジオ番組のパーソナリティーを務める高橋さんという人が、高校にやって来た。高橋さんのラジオの企画で、高校生を番組ゲストとして呼んで面白い学生生活の話を聞かせてもらおうという企画があり、そこで高橋さんが目を付けたのが当時、自分が所属していた高校の放送部。しかもその中に、体育祭で自分の名前を使った自虐ネタで笑いを取った学生がいるという事で、道汚に出演のオファーが舞い込んできた。ラジオ番組に出れるということは、人気者になってモテるんじゃないかと思った道汚は、二つ返事でその依頼を承諾した。
高橋さんのラジオ番組【ゴーゴーショット!】に出演した道汚。初めてのラジオ番組に緊張して喉が渇き、本番前まで水をがぶ飲みしてトイレが近くなってしまった。道汚は、この時は、本番中ずっとトイレの事ばかり考えていたという。
「はい。という事で、今日はね。俺の母校の放送部の高校生がゲストで来てくれています。自己紹介お願いします」
「堂島道汚です。道汚という字は、道が汚いと書いて道汚です。よろしくお願いします」
「えっ?道汚君、それ本当に本名なの?」
「はい。本名です」
「凄いね。ネタとして良いもの持ってるねー!で、道汚君は、なんかね。聞いた話によると体育祭で爆笑を取ったとか」
「体育祭の日の前日が雨降ってたんですけどね」
「うんうん」
「体育祭当日は晴れてたんですけど、前の日の雨でグラウンドに水たまりが出てきたんですよ。それでグラウンドが汚いって事は、僕の名前のネタが通用するんじゃないかなと思って……」
「あははは。やるねぇ。それで放送で笑いを取ったわけだ。凄いなぁ。でもそれ、なんでやろうと思ったの?」
「いやー……面白い奴ってモテるじゃないですか。僕は面白い奴になりたかったんですよ」
「そうかぁー。放送で面白い事やればモテると思ったんだね?」
「はい」
「あはははは。それで?どうよ?実際は?放送してから人気出た?モテたの?」
「いや、全くモテなかったですね」
「あははははは。でも今、こうやってラジオ番組出てるからさ。もしかしたらモテるようになるかもよ?ね?ラジオ聴いてくれてる女性リスナーの皆さん。どうですか?道汚君。彼女募集中です」
「よろしくお願いします」
「あはははは。良いねぇ、道汚君。面白い、面白いよ。またね、なんかこう……リスナーの皆には伝わらないかもしれないんだけどさ。道汚君って真面目な感じの子だからさ。そんな感じの子がこういうネタをするのっていいよね。俺好きだなぁ、そういうキャラ」
「ありがとうございます」
「道汚君はさ、この放送が終わったらやりたい事があるんだよね。なんだっけ?」
「トイレに行きたいですね。本番前に緊張して喉渇いて水飲みすぎちゃって」
「あはははははは。いいねぇー。大丈夫?トイレ行く?」
「いえ、まだ大丈夫です……」
「あははははは。漏らすなよぉー?」
「はい」
そんな感じで初めて出演したラジオ番組【ゴーゴーショット!】は、良い感じに終わった。名前ネタをおいしい。面白いと言われた事で、初めて自分の名前を好きになれた瞬間だった。高橋さんに気に入られた道汚は、時々【ゴーゴーショット!】で、何度か出演させてもらうようになった。道汚ファンというコアなリスナーも現れるようになった。初めて自分宛のファンレターを貰った時、道汚はとても嬉しかったと語っている。この経験からいつの日か自分のラジオ番組を持ちたいという夢が、道汚の中で芽生え始めていた。
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