第五章 土木士と新たなる試行
第一話 旅立ち
「では発進するよ」
僕はキャビン最前の運転席から後方を見回す。
ガクブルするファー以外はみんなワクワクした顔をしている。
座席は左右に二脚ずつ、三列。
運転席の二人以外に12名乗れる。
一列目右にメディとファー、左にハント。
二列目右にクリナ、左にウォリ。
最後に僕の左の席にいるマニュに視線を向けた後、僕は飛行船を発進させる。
船体の大部分を構成するガス袋は複数の部屋に分かれ、ヘリウムを出し入れすることで浮力を調整する。
「おお~」「ひゃぁぁぁぁぁぁ!」
歓声や悲鳴を聞きながら、飛行船は僕らを新たな旅立ちに
地龍討伐及びロシュ海軍を殲滅した翌早朝。
サウの街から少し離れた平原からの出立だが、目撃者を恐れ、いや、別に見られてもどうってことはないんだけど、一応一定距離まで上昇を続けると、遠くに朝日に照らされたサウの全景が見える。
クリナは窓から、その街を食い入るように見ていた。
故郷って言ってたもんね。
試験も兼ねてしばらく上下動を繰り返した後、進行方向を北に向け移動する。
基本、上下は浮力、水平移動はプロペラだ。
全ての動力は地龍の魔石が担ってくれる。
モーターも、ガス生成装置も、コンプレッサーも、魔石レーダーも、対空火器も。
「そう言えば、魔石のエネルギーってどのくらい保つんですか?」
すっかり気絶して静かになったファーを寝転がし、メディが僕の横に来て聞いた。
「魔石のエネルギーか、ちゃんと説明してなかったね」
僕の魔道具は、魔石が内包している魔素をエネルギーとして活用している。
魔石は言うなればガスボンベで、中のガスが魔素だ。
等級はこのガスボンベの機能がすごいということ。
その機能は主に充填、圧縮、精錬、放出だ。
充填は魔素の自動回収能力。
これはどのくらい短期間で魔素を溜めることができるかだ。
魔石は使い切りじゃなく、何度も使えるエコなエネルギーなのだ。
圧縮は内容量。
精錬は高純度化。
放出は最大瞬間出力。
そんな説明をした。
「ちなみに、地龍の魔石の場合、この飛行船を時速100キロの最高速で5時間飛び続けられる。万が一のために熊や鹿の魔石もバックアップ回路に組み込んであり、上昇可能範囲からのソフトランディングのためにも別回路を二重に組んである。フラグの立ちようがないのさ」
僕はドヤり散らかしながら話す。
もっと言うと、ガス袋自体が地龍の皮で、全動力がダウンして墜落する場合でも、落下時の衝撃は抑えられる設計だ。
まあその場合、重心が逆になり、キャビンが上になるので乗員は天地が逆転。
阿鼻叫喚の地獄絵図だろうけど、死にはしない。
「アキはなんで船を省略して飛行船にしたの?」
クリナが聞いてくる。
「ボートや潜水艇は創ったよ?」
「もっと大型の外洋船。セルファンに向かっているけど、これは陸路でも行けたでしょ?ファーが高所恐怖症だから、仲間探しに大陸を回るとすれば船を創るのかな?と思ったんだけど」
「船も考えたんだけど、大陸の西側はロシュの船が多いらしく、面倒だなと。それに大陸の東の海は岩礁が多くて船は危険なんだってさ」
メディに最初に会ったとき、地理について教えてもらいながらそう聞いた。
「はい。大陸の東のエリアは「未踏の大地」東山脈と上陸不可な海に囲まれた土地だそうです」
「そっか、空路じゃないと選択肢がないのね」
「それだけじゃないんだけどね」
僕は隣でニヤニヤしっぱなしのマニュを見る。
「……制空権は手に入れた」
ことあるごとに空を飛びたがっていたマニュ。
飛行船を完成させたマニュは、すぐに寝入ることもなく、僕に甘えた。
食後、クリナの家で過ごす最後の夜、寝転びながら僕は彼女の頭を撫で続けた。
食事や休憩の際は空中固定モードだ。
風に流されることも無く各所の姿勢制御装置が機体を安定させる。
座席後方にはカウンターキッチンと六人掛けのテーブルが二つ。
その奥にはトイレと浴室。
生活が可能な移動基地ってロマンだよね。
ホント、地龍の魔石に感謝だよ。
「ところで、この星、この大陸以外はどうなってるんだ?」
寝てるファーを除いた面々での昼食中、ウォリが聞く。
僕らの中で一番情報量が多いメディが答える。
「いくつもの大陸があるとは聞いていますが、詳細はわかりません。この大陸が一番人口分布が多かったらしいですけどね」
「全部で200万人でしたっけ?」
「この星全部でですね、この大陸で言えば、ロシュ50万、サウと近郊で30万、ゲオを含む西側全部で50万、他全部合わせ150万」
「他の大陸に50万ってとこか……少ないよね」
「地球で言えば西暦元年で3億人もいますからね」
「それに比べると少な過ぎないかしら?」
「いえ、地球がおかしいらしいですよ?とは言え、様々な段階で技術発展があって都度人口増加は指数関数的に伸びました」
「……ぶれーくするー」
「そうですね科学も医療も農業も様々な文化も、相乗効果で限界を越え、結果人口が増えた」
星霊も止める機会を失ってしまったのかもな。
ついでに浮かんだ疑問を口にする。
「地球の星霊はさ、どうなったと思う?」
みんな思考顔になるが、おそらくウォリは何も考えていない。
「どうなったか興味はありますけど、あまり知りたくはありませんね」
メディの言葉は皆の代弁だったのかもしれない。
経験を餌として循環していた行為に、良し悪しなんて評価すらないだろうけど、魂の無い僕らですら、なんとなく嫌悪感を抱くんだ。
「ま、その記憶を活用して僕らもこの世界で生きることができているわけだからね、そういう意味では感謝かな?」
地球にいた星霊もひょっとしたら違う惑星でまた「試行」を続けているかも知れないね。
だから迷う。
僕らの技術はこの星に根付かせるべきなのか、って。
「でもアキはこの世界と絡もうとしていないでしょ?」
クリナはやっぱりお姉さん枠だ。
言いづらい事をちゃんと指摘してくれる。
「うん。ま、そうだね」
マニュは別としても、僕以外の全員は、セルファンでもサウでも積極的に現地人と交流を重ねていた。
僕には思い浮かべる人も、記憶に残る人もわずかしかいない。
「言ったっけ?僕には、役に立ちたいって思う気持ちが薄い。状況を打開してきただけなんだ。みんなが役割に影響されているのだとしたら、僕の「設計」はこの世界に求められていないのかもね」
「そうとも言えません。私たちの能力の熟練度は、どうあっても経験を必要とします。結果として、経験値のため、現地人の求めに応じる必要があった。アキの場合、創造のレベルが高過ぎて、この世界ではまだ早いんだと思います。私たちだけ、もっと言えば、アキとマニュ。二人だけで世界は完結しているのかもしれません」
僕とマニュは思わず見つめ合う。
ま、そりゃそうか。
創造の始まりは、必要に思うモノをイメージすることだ。
それが無ければ確かに求めようも無いからね。
僕らの創りだすモノはこの世界に馴染みが無く、その価値を知るのはここにいるわずかな仲間だけ。
そして、その本質を理解し合えるのはマニュだけなのだろう。
「おれは二人の創る武器が好き。で、おれは誰よりそれをうまく使える」
ハントの言葉は僕らに対する配慮じゃない。
純粋にそう思っての素直な答えだ。
「そりゃな、こんな快適な旅ができるんだ。アキがいなけりゃ俺たち、移動だけで寿命が尽きるんじゃないか?」
「ほんとね。ワタシもまさか大空のレストランが開業できるなんて夢みたい」
ほんと、みんな優しいよね。
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