第5話 逃走
「ちょっ、もっ、走れない!」
「キリが無いですね!」
「……眠い」
「マニュ、寝るなぁぁ!」
「みんなごめん!でもこいつで最後!」
僕らはもうだいぶ走っている。
魔獣に追われているからだ。
幸いなのは、物量で攻められていないってこと。
不幸なのは、それが際限なく続いているってこと。
追いかけてきたムササビっぽい魔獣をハントが射抜く。
よくもまあ高速で飛来する対象を弓矢で対処できるもんだ。
素早く解体し、主に魔石を確保するハント以外の全員がその場で膝に手を付き息を整える。
僕は自分の音響銃の魔石を新しいものに替える。
「みんなも今のうちに交換しておいて」
「あたし、撃つ暇も、無かった、から、大丈夫」
「私も同じく」
「……みーとぅ」君ら……。
「ほんと、ごめん!」ハントがまた謝ってくる。
「いや、ハントのせいじゃないでしょ?」泣きそうなハントを見ているとなにやら嗜虐心も湧くが冗談抜きで責める筋合いは無い。
「でも、拠点にあんなに魔獣が……あんなこといままで無かったのに」
ハントの言う今までがわからないけど、ハントの拠点に向かえば向かうほど魔獣は増え、荷物の回収をした後は、森の奥へ追い立てられるように逃走を続けている。
まあおそらくは、僕らの魔石に反応したんだろうけどさ……。
それにしても、もう何キロくらい走ったのか……。
「反応、そこらじゅうにあるね」探索板を見たファーが青い顔をして呟く。
魔道具に頼らずとも、その気配は四方八方からガンガン伝わる。
「できればゆっくり体力を回復したいところですね」
「メディ、二、三日眠らずに走り続けられるクスリとか無い?」
「作れますけど、効果が切れたら二、三日眠り続け、一週間は動けなくなりますよ?」
「なんにせよ代価が必要ってことですか……」
今はなんとかなっている。
体力的には大変だけど、結果として得られる魔石の数は増えている。
しかも、この森の魔獣から得られる魔石は、うさぎなんて比較にならないほど純度が高く、音響銃のフルパワー射撃が10回は撃てるのだ。
危険に応じた対価とは言えるのだろうね。
「比較的南の方が反応が薄いみたいだ。まずは休憩できるところ探そう」
僕の声にみんなが頷き、動き出す準備を整える。
狩っているのか狩られているのか、駆っているのか駆られているのか、僕らの逃避行が体力の限界を迎えるころ森に変化が現れた。
この世界で初めて聞く水流の音だった。
視界が開けたら、幅が三メートルほどの川があった。
小石だらけの川岸からフラフラと向かい、水流に手を差し込んでみる。
ああ冷たくて気持ちいい。
「このあたり、魔獣反応が薄いね」ファーが大きめな石の上で寝転びながら言う。
「視界が開けているからかな?」僕は右から左へゆっくり流れる川下を眺め答える。
「少し休憩を取りましょう」メディも疲れ切った声で呟く。
「……さんせい」マニュもよく頑張りました。
「魔獣、川の周囲にはいない?」ハントが探索板と周囲を見回しながら不思議そうに言う。
「水が苦手とか?」
「わからないけど……」
僕は川を眺める。
流れは緩やかで、水深は1メートルほどか、透き通った水底が良く見える。
魚を食いたい欲求に襲われるが残念ながら魚影は無い。
簡易食料で休憩を取りながら方針を検討する。
「この川、南下しているみたいですね」メディがコンパスを片手に言う。
「南に向かうとセルファンだっけ?」
「ええ、ここで安住の地を探すには、ちょっと魔獣の数が多すぎます。戻るにもずいぶん移動しましたから、この川を利用しませんか?」
「歩き以外の移動手段、大歓迎!」
「……みーとぅ」
「体力のもおんぞんできるね。おれの弓矢でげいげきできるし」
「……みんななんで僕を見るのさ」
「リーダーの判断を待っているんですが?」
「ボートを創れってことでしょ?それはいいんだけど、ところで、ハントはそれでいいの?僕らこの先のセルファンって街を目指すけど」
「えっ置いてっちゃうの?おれ、みんなのやくに立てるよ?お肉がほしいならおれのぶんをあげるから!」
泣きそうな必死な顔で僕に詰め寄るハント。
ヤバい変な性癖がまた増えてしまう!
「両刀でロリショタでサドとか救えないわね」ファー、聞こえてるぞ!
「いや置いてくとかじゃなくて、ハントの意志って聞いてなかったじゃんか」
「おれ、ひとりのときはそれで良かったけど、みんなにあえてうれしかった。だからこれからもいっしょにいさせて」
キラッキラの目で訴えなくても……そっか、一緒にいたいと思ってくれるのか。
「じゃ、あらためてよろしくねハント」
僕は彼の右手をしっかりと握った。
僕らはそのまま河原で一泊した。
時折現れる魔獣は、はりきったハントが無双していた。
僕はボート以外に、念の為の準備としてメディと相談した新装備をいくつか設計し、マニュに託した後、爆睡した。
メディに短時間ですっきりするクスリを処方してもらったが、数時間の睡眠で驚くほど心身ともに快調だった。
え?常習性とか禁断症状とか無いよね?
明け方から朝までに、マットと魔石車一号を魔改造しボートを造った。マニュに頼んだ装備の一つもボートに取付けるが、これはあくまで万が一の保険だ。
「もうその考えがフラグみたいなものですね」
僕がメディに設計内容を事前に説明した時、そう笑われたが、僕はできることは全部しておかないと気が済まない小心者なのだ。
「おぉ~すごい、ちゃんとボートしてるね!」
「ファー、はしゃがずにちゃんとマニュを支えていてね」
「ど、どうせあたしはそのくらいのことしかできないからねっ!」
僕やマニュが装備を造り、メディが体調回復に活躍し、ハントが防衛を一手に担う。
あれ?ホントだファーの出番が、毒の鑑定くらいだ。
「おれ、ファーのつくるごはん好きだよ」
「ハント……あんたいい子ね、お昼はお姉ちゃんのお肉あげるね」
もともとお前のじゃないだろうが。
でも天真爛漫で素直なハントの加入は、俗世にまみれた僕らの関係に差し込む神々しい光にも思えた。
「ところでアキ、操作、代わりましょうか?」
メディは、ボートの後部で、改造した放水銃による推進と操舵を担当する僕に言う。
「そうだね、覚えておいてほしいかな。それに新兵器の確認もしたい」
「ハント用のですね?」
設計する内容をメディに申告してから行っているのは、信用うんぬんではなく、自分の着想を再確認する意味もある。
実際、話すことで設計内容を変えたり、優先順位を切り替えたりということはしてるんだ。
決断は僕が行うにせよ、メディがブレーンとして機能しているおかげ。
僕はメディに操船を代わってもらい、ラックに置いておいた長いブツを取り出しハントに渡す。
「おれの?」
「そ、弓矢もいいんだけど、直進安定性、装弾性、距離などを考慮してきみにピッタリの武装と思う」
「ライフル?」
「用途としてはね。炸薬で発射するわけじゃないけど」
「おんきょう銃だっけ?音波を出すの?」
「魔石で高圧エアを作って金属弾を打ち出すんだよ」
直径8mmの金属弾も見せる。
ベアリング(軸受)を製作した際の副産物だ。
「装弾数50発。射程距離200メートル。ハンターの為の武器さ」
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