第92話賢者サイド 疑惑

 私は窓際から、レオダス達がトボトボと帰っていくのを見つめていました。


「クックック、愚かな」


 ああ、気持ちがいいですね。


 あの愚か者を追い出すことに成功したこの快感。


 たまりません。

 たまりませんよぉーーー!!


 私は全身に鳥肌が立つのを感じました。


 ええ、恐怖からではありません。

 歓喜です。

 歓喜で体が震えるのです。


 私は震える体を抑えようと、顔を手で包もうとしました。


 その時、身体が震えたのです。


「ぐっ」


 くぅ、さっきあのレキスターシャに握られた顔が痛む。


 私はゆっくりと身体を揺さぶります。


「フッ、あのクズめ。ですが、もうどうすることも出来ないでしょう。勝った。私は勝ったのです!」


 さて、これからどうしましょうかねぇ。


 このまま自由自適にここで過ごすも良し。

 公国として独立するも良し。

 それこそ、王国を潰し、巨大な領地を手に入れるのもいいでしょう。

 世界を救い、支配することも、ね。


「ふむ、ですが、このままレオダスを生かしておくのもつまらないですね」


 ここできっちりと殺しておくのもいいかもしれません。

 既に奴はなんの脅威でもありませんが。


 私を殺そうとする可能性もありますが、薄いとみていいでしょう。

 間違いなくレキスターシャに止められます。

 それほどまで、レキスターシャのアターシャを想う気持ちは強いのです。

 私は最大の切り札。

 ジョーカーを握っているのですよ。


「・・・しかし、このまま奴らが諦めるでしょうか?」


 なにも出来ない筈です。

 奴らに打つ手などない筈です。


 ですが、天才であり、勘すらも超人的な私は、どうにも嫌な予感がする。


 あの忌々しいレオダスならば、このどうにもならない状況をひっくり返してしまうのではないかと。


 やはり、殺しておくべきです。


 あの、レオダスを。



*********


 レオダスは一人、都を歩いていた。


 何故仲間と一緒ではないのかというと、情報収集の為である。


 “真実の鳥”なる未知のアイテムを見つける為に、仲間達はバラバラになって情報を集めているのだ。

 手分けして探した方が効率がいい。


 しかし、聞き込みはしたが、“真実の鳥”の情報は全く得られなかった。


 まあ、そう簡単に情報を得られるとは流石に思っていない。


 そんな簡単に情報が得られるならば、とっくに誰かが見つけているだろう。


「聞き込みを続けるしかないんだろうなぁ~」


 カクンと顎を下に落とし、レオダスは嘆息した。


 時間はあまりない。


 あの娘に甘い親馬鹿レキスターシャ公がいつまでも耐えられるとは思えない。


 今はまだ、王国に攻撃せよと言って来ないが、それもセリシオの気分次第。


 いつ爆発するかも分からない爆弾の上を歩いているようなものだ。


 危険物は早く取り除くに限る。


 “真実の鳥”さえ手に入れれば、セリシオの本心が判る。


 セリシオの本性を知れば、流石にアターシャ嬢も目が覚めるだろう。


「ふぅ。次は何処に聞き込みをしようか」


 途方に暮れていると、レオダスはある気配を察知した。


 間違いなく自分を見ている。


 それも、敵意が籠った気配だ。


(何者だ?)


 レオダスはゆっくりと人気の少ない路地へと移動した。




 しばらく歩き、人のいない場所まで来るとレオダスはピタリと止まった。


「さあ、解っているだろうが人気のない場所まで移動してやったぞ。いい加減出てこい」


 そう言うと、一人の男がのっそりと姿を現した。


 顔にはいくつものピアス。

 着ている服もくたびれており、まっとうな人間には見えない。


 隠すつもりもないのか、男はおもむろにナイフを取り出した。


「へっへ、レオダスで合ってるよな。ちょっくら死んでもらうぜ」


 レオダスはすぐにピンときた。


 このタイミングで自分を襲ってくる理由のある人間など一人しかいない。


「ああ、誰に命令されたのかは聞くまでもないな!」

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