第90話賢者サイド 高笑い

 私はレオダス達を追い出しました。


 ふふ、私の私室からトボトボと出ていく奴らを見ると、酷く滑稽に思える。


「ふはは」


 知らず、笑いが零れる。


「ふはーーーーーーーーーはっはっはっはっは!!!!」


 思わず腹を抱えます。


 こんな楽しいことがあるでしょうか?


 あれだけ私を殺そうとしていたレオダスが。

 憎しみの籠った視線を向けてきたレオダスが。


 無力にも拳を握り、哀愁を漂わせながら去っていく。


 滑稽です。


 酷く滑稽で愚かです。


 ああ楽しい。


 腹が痛くなってきましたよ。


 さて、無様な奴らの姿を見たところで、アターシャの所に行きましょうか。


 フフ、それにしても。


 私は再び笑いがこみあげてくる衝動を押さえました。


 あの女も馬鹿ですね。


 この私の寵愛を本当に得ていると信じているのですから。


 あの女こそ滑稽と言えるでしょう。


 この私が愛すると値すると感じた女性などいませんよ。


 クレアはいいとは思いますが、それはあの体だけ。


 クレアも、アターシャも精々私の為に働きなさい。


 ここでアターシャと結婚すれば、さてさて、私が次の公爵ですか。


 そうなれば、こんな国に用などありませんね。


 公国として独立しましょうか。


 そして、その軍事力で、世界を手に入れることも、いえ、魔王を倒し、世界の英雄として称えらえるのも悪くはないかもしれませんね。


 そうなれば、地位も、名誉も思いのまま。


 それは勇者パーティーの一人として魔王を倒すよりも、よっぽど名誉なことでしょうね。


 はは。

 はははははは!!


「さて、行きますか」


 ひとしきり笑うとアターシャの部屋へと向かいます。


 あの女は私の切り札。


 丁寧に扱わなければなりませんから、未だにキレイなままです。


 ですが、ふふ。

 そろそろキスくらいはしてもいいかもしれませんね。


 通路を歩いていると、反対側から一人の男が現れました。


 誰あろうレキスターシャです。


 この男は要注意ですね。


 アターシャのおかげで私は今こうしていられるが、もしそれがなければ私はこの男に殺されてしまうでしょう。


 だからこそ、この男には丁寧な対応をしなければ。


「これはこれは父上。ご機嫌麗しく」


 レキスターシャ公は私の挨拶を無視すると黙って私と交差します。


 ふん。

 今に見ているといいでしょう。


 いずれ貴様を殺し、私があの玉座に座るのです。


 そう。

 私は、この国の王となる男なのですよ。


 そのまま去ろうとした時、ぬっ、と太い指が目の前に伸びてきました。


「な」


 その指は私の顔にアイアンクローをしたかと思おうと、凄まじい握力で私の顔を握り潰そうとしたのです。


「ぐあ、ぐああああああああ!!」


 い、痛い。

 なんという痛みだ!


「“父上”だと? 誰の許しを得て吐いたのだ?」


 ミシミシ、

 メキメキ。


「ぐあああ、い、痛い痛いぃーーー!!」


「貴様など、このままりんごのように握り潰してしまうことも容易いのだ」


「わ、わたっ、私を殺したらアターシャが悲しみますよ!!」


「っつ」


 そう叫ぶと、指の力が弱まり、私は解放されました。


 か、顔は大丈夫でしょうね?


 この私の美しい顔は歪んではいませんか?


 私は顔をさすり、それを確かめます。


「貴様が、アターシャの名を呼ぶたびに、わしは貴様を殺したくなる」


「ひっ!」


 か、身体が震える。


 まさか、この私が恐怖を?

 馬鹿な!


「貴様は近いうちに正義の裁きを受けるだろう。短い時間、悠々と過ごすがいい」


 それだけ吐き捨てると、レキスターシャは去っていきました。


 お、おのれぇ、馬鹿力の腐れ軍人が。


 見ていなさい。


 必ずお前を殺す。


 アターシャを手にし、絶望を与えた後で必ず殺してあげますよ。


「なにが、正義の裁きですか。それはこっちのセリフですよ。貴様には、必ず私自らが裁きを食らわせてあげます」

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