第84話依頼を受けたはいいけれど

「俺がそのアターシャ嬢の説得ですか?」


 無茶な。


 冒険者はなんでもやると言っても、得意不得意がある。


 俺は世間一般がイメージする冒険者の仕事が最も得意。

 つまりは戦闘や採取などだ。


 人を説得。

 しかも、恋愛事となると、完全に俺の分野ではない。


 王様もそれは解っているだろうに。


「お前にはセリシオが如何にクズであるかをとくと語ってやるといい。お前は奴の悪行を目のあたりにした人間の一人だからな。それ以外には期待していない」


 あ、そっすか。


「やはり恋愛事は女性の方がいいのだろう。アティ、クレア、ステラ。お前達には期待している」


「まあ、あたしにかかれば恋愛関係はバッチリよ!」


「え、えっと。私はそっち方面はそれほど・・・」


「あー、あたしは男はフッたことはあっても実際に付き合ったことは・・・」


 アティ。

 君のその自信はどこから来る?


 クレア、愛いらしいぞ。


 そうか、ステラは小悪魔的なのか。


「・・・やはり人選を誤ったか。しかし、他に当てが」


 そう言って王様はアトスを見てすぐに視線を外す。


「あの、僕に期待されても」


「ああ、流石に11歳にはな・・・」


 やばいぞ。


 俺達はこの分野では相当にポンコツだぞ?


「と、とにかくよろしく頼むぞ。なんとしてもアターシャ嬢を説得し、セリシオを連れてこい。いや、セリシオに関してはその場で裁いても構わん」


 力強くそう言った王様だが、つまる所は丸投げであった。


*********


 俺達は宿屋に戻り、顔を突き合わせた。


「まさかこんな依頼を受けるとはな」


 俺はため息をついた。


「とは言っても、やるしかありません。理由はどうあれ、これは国の大事です」


 真面目にクレアがそう言った。


 まあ、確かにその通りだ。


 今はまだ何も起きていない。


 レキスターシャ公がいつ攻撃に転じるのかまるで分らない。


 普通に考えれば有り得ないんだけどな。


 それでも、可能性はゼロでは・・・。


「アティ、そのアターシャ嬢という人はどんな人なんだ?」


 アティに尋ねると、彼女は首を捻り唸る。


「うーん。さっき言ったこと以上のことは知らないわ」


「そうなのか」


 困ったな。


「ただ、こんなシーンを見たわ。社交界での一幕で、アターシャの近くに男性が近づこうとした時、父親であるレキスターシャ公が後ろで睨みを利かせたの。その男性はビビっちゃって、その場を離れたわ。その場面を見た男性は軒並みアターシャから離れていった」


「うわっ」


 軍人として英雄である公爵に睨まれたら、並みの男なら引いてしまうのは仕方のないことだ。


 つまりは、レキスターシャ公は男を寄せ付けないってことだ。

 なのに、


「なんでセリシオはアターシャ嬢に近づけたんだ?」


「レキスターシャ公も四六時中張り付いていられるわけじゃないんだし、隙を狙ったんでしょ。その後はそうね。『このことは二人の秘密ですよ』とでも言ったんじゃないの?」


「あ、それなんか素敵です。秘密の共有」


 クレアの琴線に触れたのか、目を細め、どこかうっとりとした表情を作る。


「女の人はそういうの好きなの?」


 アトスはいまいち解らないといった顔で首を傾げる。


 うん、俺も今一つ解らない。


「まあ、アトスはまだ解らないかもね。レオダスは、うん、いいや」


 ステラがどこか諦めたという様子で、俺を見た。

 な、何だその視線は。

 確かに解らないけど、それは生きていくうえで必須ではない、筈だ。

 あ、それを言っちゃう時点で駄目ですか? 駄目ですね?


「コホン。これは王様からの依頼だし、すぐに向かおう」


 俺は誤魔化すように(いや、誤魔化してない。ないといったらない)そう言った。


「そうだね。何か起こる前になんとかしよう。それにセリシオが絡んでいるなら、僕らも他人事じゃない」


 アトスがそう言うと俺は頷く。

 最もだ。


「あのー」


 ステラがちょんと手を上げる。


「なんだステラ?」


「先に冒険者ギルドに寄っていい?」

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