第70話異世界からの来訪者10

 朝になり、俺達は村に向かった。

 昨日はスティーグのせいで予想外にバタバタしてしまったが、これからが本番だ。


「アトスさん。なんだか機嫌がいいですね?」


 クレアが嬉しそうにアトスに問いかけた。


「そう?」


「ええ、最近、何か張りつめているように見えましたから」


「そう、かな。でも、大丈夫だよ」


 アトスがにっこりと笑うと、クレアは何故か顔を赤くし、「はわわ~」と声を上げる。


 クレア、たまにアトスに絡むとああなるよな。

 何かあるのか?

 何故かステラが引いているのも気になる。


 それにしても、クレアもアトスが気になっていたのか。


 俺は、気が付かなかった。


「レオダス?」


「えっ?」


 アティが心配そうに俺を見る。


「どうしたの? 朝から変だよ?」


「い、いや、なんでもない」


「そう? 何かあったら言ってね? あたしはパートナーなんだから」


「ああ、ありがとうアティ」


 いかんいかん。

 アティに心配させてしまった。

 気分を切り替えないと。


「パ、パーティー。パーティーですー」


 何故かクレアが間に入ってくる。


 何故クレアはアティが“パートナー”と言うと、過剰に反応するんだろう。

 謎だ。


 そして、ステラは今度は面白そうにこっちを見ている。

 彼女は何を知ってるんだ?

 今度聞いてみよう。


「おい、バカーティー」


「「バカーティーってなんだ!!」」


 アティとステラが目くじらを立てて怒る。


「村まであと30分くらいだって言ったな?」


「あ、ああ」


「悪魔共はそこにいるって?」


「そうだよ。あたしが調べといた」


 ステラが胸を張った。

 彼女の調査は信じられる。


「じゃあ、あそこにいるのはなんだ?」


 スティーグはクイっと顎を上げ、その先を俺達は見る。


 そこにいたのは悪魔。


 赤黒く、ほっそりとしているが、身長は2メートルはあり、頭からは二本の角を生やした異形の生物。


「レッサーデーモン!」


 クレアが叫び、武器を持った。


「くそ、あたしが偵察に行った時は、村にいたのに。出てきちゃったか!」


 ステラもガントレットを嵌めて、臨戦体制に入り、俺、アトス、アティもそれぞれ武器を取る。


 レッサーデーモンはアークデーモンよりも弱い。

 弱いんだが、10体はいるな。


「俺が先頭に立つ。アトス、ステラ、行くぞ!」


「「了解!!」」


「二人は援護頼む」


「「はい!」」


 アティとクレアに指示を出し、俺達三人は走る。


 あっちも俺達に気が付いて、こちらに向かって牙を剥く。


 長い爪を振るってくる悪魔の一体を躱し、斬りつける。


「GGA!」


 出鱈目な発音を発し、悪魔は悲鳴を上げた。


 俺が斬っている横から迫ってくる悪魔をアトスが仕留める。


 やはり、聖剣は悪魔と相性がいい。

 サクッと刃が通るようだ。


「ステラ無理するなよ」


「ほい。身の程は弁えてますよ!」


 ステラは悪魔をけん制しつつ、上手く攻撃を躱し、確実にダメージを入れていく。

 足の止まったところを俺とアトスで斬りつける。


「GAA!!」


 悪魔の手から黒い球体が生まれる。

 闇魔法だ。


 俺はチラりと後ろを見る。


 そこで、


「“セイクリットストライク”」

「“エアボール”」


 クレアとアティの魔法が放たれた。

 悪魔共を打ち抜き、あっちの連携が崩れたところを俺達前衛三人が止めを入れていく。


 レッサーデーモンは動きも緩慢で、隙も大きい。

 腕に覚えのある者ならば、倒すのはそう難しくない。

 俺達はそれ程苦戦することもなく、10体のレッサーデーモンを倒した。

 俺は汗をぬぐい、仲間達と笑いあう。


 そうしていると、


 ぽふぽふぽふと、

 気のない拍手が聞こえた。


「お見事お見事」


「・・・あんた、何もしなかったな」


「ああ、そうだな。くあぁ~」


 緊張感皆無の大あくびをしたスティーグを俺は睨みつける。


 こいつ・・・。


「あんた何やってんの? いる意味あるの?」


 アティが食って掛かる。

 相当頭にきてるな。


「まあ、あたしらの連携完璧だし? ぶっちゃけいらなくない?」


 ステラがどや顔で言い放つと、アティもうんうんと頷いた。


「そうだな。見事な連携だ。相手は決して弱いわけじゃなかったのにな。大したもんだ」


 再び、ぽんぽんぽんと気のない拍手を送る。


「まあ、そういうことで、俺は後ろで見てても問題ないってことで動かなかった。動く時は動く、かもしれない」


 俺の苛立ちが頂点に達した。


 イライラする。

 こいつを見ているとどうしようもなく胸の中がかき回されてイラつく。


「スティーグ」

「あ?」


 俺は息を吸い込む。


「出て行ってくれ。お前は俺達のパーティーには要らない」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る