第69話異世界からの来訪者9
俺のことだと?
アトスが俺のことで悩んでいる?
どういうことだ?
益々出にくくなってしまい、俺は息をひそめる。
「なんで、それを?」
「なんとなく」
本当に読めない奴だ。
なんで俺にも分からないアトスの悩みを。
胸がもやもやした。
「俺はどうせもうすぐ抜けるんだ。木にでも話すつもりで言ってみないか?」
俺のことで悩み。
兄貴分として、あいつを悩ませることをしてしまったのだろうか?
「レオダスは、本当に凄いんだ」
アトスはスティーグを見ることなくぽつりぽつりと話し出す。
「ずっと僕の憧れだった。強くて頼もしくて、だから、彼のようになりたいと思っていた。だって」
「『だって僕は勇者なんだから』、か?」
バッと、アトスはスティーグを見た。
「・・・なんで?」
「なんとなく。ほれ、続きを話せ」
戸惑いつつ、アトスは続ける。
「僕は勇者だ。名目上は僕がリーダーだけど、実際にはレオダスだ。彼の凄さを最近身に染みて分かって、僕もあんな風にならなくちゃって」
「世界を救う勇者はそうじゃなければならないってか?」
コクリとアトスは頷く。
アトス。
あいつそんなことを考えていたのか。
勇者のプレッシャーをずっと感じていたんだな。
気が付かなかったのか。
ずっと傍にいながら、俺は・・・。
「阿呆」
「なっ!?」
こ、この野郎。
アトスの悩みをアホで片付けやがった。
「お前はまだガキで未熟だ。出来なくて当たり前だ」
「で、でも、僕がやらなきゃ!」
「そのまま気を張って、張り続けてるとつぶれるぞ?」
ぐっと、アトスは唇を噛む。
「辛いと思うこともあるけど、僕は勇者のスキルを授かった。僕がやらないといけないんだ!」
「スキルか。なるほど、スキルが“勇者”だから勇者なのか」
コクリと頷く。
「だったら逃げろ」
「えっ?」
「そんな誰とも知らない奴に押し付けられた使命なんぞ忘れて、とっとと逃げろ」
「そ、そんな無責任な」
「逆だろう? そもそもお前みたいな子供に、いきなり責任を押し付ける奴が悪い」
「そ、そんな」
俺は衝撃を受けた。
使命を押し付ける奴が悪い。
勇者に選ばれるなど、この上ない名誉だ。
それを、そんな風に考える奴がいるなんて、思ってもみなかった。
「僕が勇者を辞めたら、世界が危機に陥るんだ。誰かが苦しむんだ!」
「だから?」
「だ、だからって」
「それがお前に押し付ける理由になるのか? “誰か”と言ったな? その“誰か”の苦しみを全てお前が背負わなければならないのか? じゃあ、お前はどうなる?」
「・・・」
「特別な力があるから何かを背負わなければならない。そういう考えを俺は大嫌いなんだ。それを使命だ運命だと周りは騒ぐ。お前一人を生贄にしてな」
「っつ」
「そんな顔も知らない奴らより、周りを見ろ。あいつらはお前が旅を辞めたからってそれを責めるような奴か? 無責任と罵倒するのか?」
「そ、そんなことないよ!」
「だろう? お前が旅を続けるのは自由だ。だからって全てを背負う必要なんてねーんだよ。気楽に行け気楽に」
「そう、なのかな。それでいいのかな?」
スティーグは鼻で笑う。
「赤の他人がお前を否定しようと、あいつらは否定しないだろうさ。お前はどっちを信じる? 赤の他人か、仲間か」
「・・・仲間さ。当然だよ」
「レオダスがやたらと強いから、劣等感を感じているんだろ。だからどうした、頼れ、背負わせろ。仲間なんだったらな」
よっと、と。
スティーグは立ち上がる。
「んーー! ガラにもなく人生相談しちまったな」
伸びをすると、スティーグはそのままトコトコとアトスから離れていく。
「あ、あのっ」
「寝る。お前もさっさと寝ろ」
「あ、あのスティーグ」
「あ?」
スティーグは振り返る。
「あの、ありがとう」
「感謝するなら金払え」
「・・・台無しだよ」
アトスはがっくりと肩を落とした。
俺はそれを隠れながら聞いていた。
本来なら、この会話は俺がしなきゃならなかった。
俺が、アトスから聞いてやらなければならなかった。
俺は知らず臍を噛んでいた。
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