第62話異世界からの来訪者2

「出て行ってくれ。お前は俺達のパーティーには要らない」


 俺はその人物にそう言った。


 かつて過去にそう言われたことがある俺としても、使いたくはない言葉だったが、こいつには言っても許されるだろう。


 この、いい加減な男に言う分には。


*********


 それは昨日の出来事だ。


「大変なことになったな・・・」


 俺はゴクリと喉を鳴らす。


 俺だけではなく、他の面々も同様に、深刻な顔をしている。


 それもそのはず。


 とある小さな村にデーモンが闊歩かっぽしているというんだ。


 しかも、一体、二体ではない。


 一体何故こんなことになってしまったのか。


「・・・あたしが偵察で見てきたところ。レッサーデーモンが40体、アークデーモンが6体確認できました。目視出来る範囲内で、ですけど」


 ステラは重い口を開く。


 俺達は青ざめた。


 この間はアークデーモン一匹に苦戦した。


 それが今度は最低でも6体。

 レッサーデーモンも侮れない数字だ。


「村人は一人もいません。悪魔に殺されたっていうよりも・・・」


「全員、生贄にされたか」


「・・・はい」


 村人を全員生贄にして、悪魔を召喚する。


 タイミング的にこんなことをする奴は一人しかいないだろう。


「セリシオか」


 アトスがギリっと奥歯を噛む。


 セリシオ。

 ついこの間まで勇者アトスのパーティーの一員として、活躍していた人物。

 性格に難はあったが、それでも魔法の使い手としての技量は確かだった。


 だが、俺を追放し、それを死んだと偽装してから歯車が狂い始め、とうとう悪魔を召喚する外道へと墜ちてしまう。


 城中を巻き込んだ悪魔召喚事件はまだ記憶に新しい。


 そして、今度の村一つを巻き込んだ悪魔召喚。


 まさに、外道に墜ちた愚者。


 あんな奴とパーティーを組んでいたんだ。


 リーダーとして、アトスも思うところがあるのだろう。


「あたし、魔法は門外漢なんですけど、そんなに悪魔ってポンポン召喚できるもんなんですか? この調子じゃ、アイツによって、世界中の人達が生贄になっちゃいますよ」


 ステラが最悪の未来を言い出した。


 確かに、悪魔召喚は禁忌として、これまで厳しく罰してきた。


 こんなに見境なく悪魔召喚する人物など、おそらくは前代未聞。


 鳥肌が立ったが、アティは冷静に首を横に振る。


「悪魔召喚には膨大な魔力が必要よ。そんなに簡単には出来ないわ」


「魔力だけは、あれも持ってるってことですか?」


 ステラがアティに尋ねると、アティは「いいえ」と答えた。


「あの大賢者(笑)の、魔法使いとしての才能だけは認めてあげるわよ。でも、それだとしても魔力が足りない。触媒が必要よ」


「触媒?」


「一番ポピュラーなのが、魔力が込めてあるタリスマンとかの宝石。他にも呪具とか色々あるの。とにかく、一人の人間が簡単に召喚できるものじゃない」


 あれ?

 それだとおかしくないか?


「あいつ、城でも沢山の人間を生贄にしたぞ?」


 そう。

 セリシオはアークデーモンを始めとし、レッサーデーモンを何体も召喚した。

 そんな芸当が何故出来たのだろう?


「ジャラジャラ付けていたじゃない宝石を。ローブの下に隠して」


「ああっ」


 ただの悪趣味かと思ったが、あれが全部魔力のこもった触媒だったのか。


「そして、今回の村一つを巻き込んだ召喚。あいつがいくら元貴族様でも、もうないと考えていいわね」


「つまり、これであいつはもう、悪魔召喚は出来ない?」


 コクリとアティは頷く。


 それは、安心材料だ。

 材料なのだが、今回を乗り越えなければ、次回はない。


 レッサーデーモンは数が多いが、上手く分散させればなんとかなるだろう。

 しかし、アークデーモンは難しい。

 それが6体。


 一体どうすればいい?


 俺達が唸っていると、クレアがはっと前方を見た。


「えっ!?」


「どうしたクレア?」


 まさか、悪魔か、と思ったがそうではなかった。

 そこには何もない風景があったのだが、その空間がぐにゃりと歪んだ。


「召喚か!?」


「違うよ! これは転移? いえ、似てるけど、もっと大きな、なにこれ!?」


 アティが混乱して叫ぶ。


 そして、その歪んだ空間から一人の男が現れた。


「あー、それで、ここは何処だ?」


 そんな緊張感がまるでない呟きと共に。

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