第54話裁きの時 本章 ざまあ回
蛇に睨まれた蛙。
セリシオはガタガタと震えていた。
「セリシオ。お前は仲間を無視した独断行動のみならず、勇者パーティー結成を要請した俺の意向も無視した形となるが、それを理解しているか?」
「め、滅相もない。王の意向を無視するなど!」
王様は目を細めた。
「理解出来ていなかったか?」
「あ、うう、う」
自分が正しいと絶対的に信じているセリシオは周りの意見を聞こうとしない。
結果、視野が狭くなっていたんだな。
俺も追放された当人だったから、その辺のことをあまり考えていなかった。
「わ、私は勇者パーティーを、延ひいてはこの国を案じて!」
セリシオは身振り手振りを交え、必死に弁解した。
しかし、王様はどこまでも冷静だった。
「俺にはお前の自由に出来る箱庭が欲しかっただけと思えるがな?」
「は、箱庭?」
「なんでもお前の思う通りに動き、自己顕示欲を満たせる箱庭だ」
「ち、違います。私は断じて」
「まあ、それもお終いだがな」
「・・・え?」
ピタリと身体を震わせるセリシオ。
「真相は白日の下に晒された。これでまだ勇者パーティーに居られると思う程、お前も愚かではあるまい?」
いや、愚かだったなセリシオ。
未だにアトスの信頼を得られると信じていたんだろう。
だがな、人間はそんな単純ではないんだ。
セリシオはガバっとアトスを縋るように見た。
「言った筈だよセリシオ。君は追放だ」
「う、あ。うぐぅうう」
目に涙を浮かべ、セリシオは呻いた。
「それで終わりではないぞセリシオ?」
「えっ?」
ビクリと震え、セリシオはギギギという擬音が聞こえそうな程ゆっくりとぎこちなく、首を回し王様を見る。
「お前はまだ自分がしたことを理解していないな?」
「・・・と、申しますと?」
王様は目を細め、鼻を鳴らす。
「勇者は世界を救う旅をしている。それをお前は私的な理由でレオダスを追放した」
「し、私的など・・・」
「あまり俺を舐めるなよセリシオ」
王様の眼力で、セリシオは震えた。
「自分よりも優秀で、勇者に発言力のあるレオダスが疎ましかったのだろう。それが判らない俺だと思うか?」
「・・・」
完全に黙ってしまった。
「レオダス追放により、冒険は遅延し、仲間内で不和が生じた。国を想ってと言ったな。ならばお前のしたことは全くの逆効果。平和を脅かす行為だ」
「そ、それはいくらなんでも大袈裟でございます!」
「黙れ! いいかセリシオ。勇者の旅はな、お前の名声や自己顕示欲を満たすための道具ではない!!」
「ぐ、うう、ううおうぅ」
セリシオは頭を垂らし、ズルズルとその場に寝そべろうかという程腰を曲げた。
だが、セリシオの罰はまだ終わらない。
「そんな人間を貴族にしておくわけにはいかん。お前の地位は剥奪する!」
「なっ!?」
「財産も没収だ!!」
「ま、待って、待ってください。そんな! あまりにも酷い仕打ちです!」
「人一人の存在を抹消しようとしたのだ。それに比べれば随分と軽いと思うがな?」
「そ、そんな、そんな馬鹿な。あんな男と私が比べられる?」
セリシオはぐるりと首を捻り、俺を睨んだ。
目からは涙が流れ、鼻からは鼻水、口からは涎が垂れている。
「レオダス、れおだずぅーーーー!! 私を、私を助けなさい! 早く、早くぅーーー! 全て貴様のせいだ。貴様の、貴様のぉ――! 助けろ、私を、私を助げろぉ――――――!!」
俺は目を瞑り、懐から財布を取り出した。
そして、銀貨を一枚つまみ、セリシオの足元に放る。
「・・・あ? ぎん、か?」
「そうだ。お前が俺を追放した時、俺の足元に放った銀貨だ。それをお前にやろう」
「こ、こんな、こんなもので一体どうしろと!?」
「その一枚を慈悲と言ったのはお前だろう? ここから俺はやり直そうと決めた。お前もそうするんだ」
「うあああああ!!」
がばっと起き上がり、セリシオは俺を睨む。
「ふざけるなふざけるなーーー!!」
銀貨を地面に叩きつけると、王様に詰め寄った。
「王様、国王陛下! お許しを、お許しーーー!」
目を真っ赤にし、涙と涎を垂らし、這い寄るようにセリシオは王様に迫る。
ここで騎士団長が動いた。
「近づくな痴れ者!」
抜いていない剣でセリシオの肩に打ち付け、打倒した。
「自分のやっていることが解っているのか? そんな錯乱状態で王に近寄るなど、殺害を疑われてもおかしくはないぞ!!」
「さ、さつがい?」
既に考える力が残っていないのか、セリシオはそんなことすら理解できない。
「王。この者、どう致しますか?」
「ふむ。いっそ後腐れなくこの場で首を刎ねてもいいのだが」
「ひい!!」
「まがりなりにも勇者パーティーにいた実績がある。首は勘弁してやるか。追って沙汰を出す。牢にでもぶち込んでおけ」
「ははあ!!」
「ま、待て、待って。陛下、お許しを―!! レオダス、何をしているのです!? 何とかしなさい、何とか! 近寄るな、は、離せぇ、止めろ―――――――――!!」
セリシオは騎士団長にしょっぴかれ、謁見の間から退出させられた。
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