第52話賢者サイド 交わる時

 賢者サイド


「勇者様を見た!?」


 私とオマケのアルトスは、駆け足で王都へとやって来ました。


 恐らくはここにアトス、クレア、そしてあの忌々しい女、ステラがいる。


 急がなければ、なんとしてもあの三人がレオダスと合流する前に見つけなければなりません。


 しかし、王都は広い。


 どこから手を付ければいいか分からなかったのですが、適当に聞き込みをした検問の門兵があっさりと答えてくれました。


「ああ、勇者様は俺も知っているからな。間違いないと思うぞ。聖女様の顔にも見覚えがあった」


 ふふ、ツイています。


 当然と言えば当然ですが、あの二人は王都では有名人。


 それに二人は別に隠れているわけでは無いのですから、普通に城下町へ入る門を出入りするはず。


 見つけ出すなど造作もなかったのです。

 流石は私ですね。


「それで、勇者様は一体何処へ?」


 私が尋ねると門兵は首を捻りました。


「さあ、行先までは言っていなかったがなぁ」


 使えませんねこの男!


 あの勇者の旅立ちですよ。

 何処へ行くのかくらい聞いておきなさい!


「ああ、そういえば、二人に付いて行った女が」


「それはどんな女でしたか!?」


 私が門兵を揺すって尋ねると、彼は驚きつつも答えた。


「あ、ええと。気さくな感じの女の人だったぞ。若かったが」


「ステラだ。間違いねぇ!!」


 隣でアルトスが叫びました。


 やはりです。


 やはりあの女、二人と一緒にいたのです。


 あの二人をかどわかし、私を置いてこんな所まで。


 許せん。


 殺す。

 絶対に殺してあげますよ。


「それで、その女がなんなんですか?」


 私は門兵に続きを促した。


「カルルタート山の道はあっちだとか、そんなことを言っていたな」


「「カルルタート山?」」


 忌々しくも、アルトスと声が被ってしまいました。


 しかし、カルルタート山。

 何故そんな場所に行ったのでしょう?


 まさか、既にレオダス生存を確認したのでしょうか?


 あの男がカルルタート山にいる?


 三人はそれを追ったというのでしょうか?


 不味い。


 早く三人に合流、あるいはレオダスを発見し、三人が見つける前に殺さなくては!


「行きますよ」


「あ?」


「何を呆けているのです。向かいますよ、カルルタート山に!」


「ええ? 今すぐかよ? 着いたばかりだぜ。少しは休んでいこうや」


「何を悠長な。では好きにしなさい。私は一人で行きます」


「お、おい。ちょ、待てよ!」


 置いていかれて寂しかったのか心細かったのか、アルトスは女々しく私に付いてきました。


 それでいいのですよ。

 あなたに考える頭などないのですから。


 道中モンスターに出会ったら壁になる人間が必要ですからね。

 来るなら同行を許可するのもやぶさかではありません。


 こいつがレオダスと会ったとしても、上手く丸め込みます。

 私は大賢者、そしてこいつは猿なのですから。


 こうして私達はカルルタート山に向かった。


 本当に登るか迷った末に、山から最も近い村で待つことにしました。


 そこでー


*********


 そしてー



 レオダスサイド



「セリシオ」


「レオダス」


 俺達は再び出会った。


 俺にとっては因縁の相手だ。


 何故こいつまでここにいる?


 考えるまでもないか。

 三人を追って来たんだ。


 俺がいてさぞ驚いたことだろうな。


 後ろにいるアルトスは目を白黒させている。


 ああ、こいつも俺が死んだと思っていた口か。


 俺も当然怒りはあるが、それよりも怒っているのがアトス、クレア、そしてアティだ。


「セリシオ。これはどういうことだ」


「ゆ、勇者様」


 アトスに迫られ、セリシオは酷く動揺している。


 それも当然だろう。


 アトスにしてみれば、まんまと騙された形だ。


 セリシオにしても、絶対にバレてはならない俺の生存がバレてしまった。


 動揺も無理はない。


「君は言ったな? レオダスは死んだと。でもレオダスはちゃんと生きている。何故僕らに嘘を言ったんだ」


「そ、それは・・・」


 顔を引きつらせていたセリシオだが、徐々に顔色が戻っていき、最後には太々しく笑った。


「全ては、私の慈悲です」


 アトスは目を険しくする。


「慈悲、だと?」


 セリシオは悪ぶる素振りを見せず、堂々と言い放つ。


「その通り。あなたとクレアは納得していませんが、レオダスは我々パーティーのお荷物。これはれっきとした事実です。そんな彼を加え続けていては遠からずこのパーティーは瓦解する。その前にあなたの頭脳である私は手を打った。それだけのことですよ」


「なんで僕に相談しなかった?」


 やれやれとセリシオは肩をすくめる。


 その度に、アトスの顔が険しくなるのが理解できているのかいないのか。


「それこそが慈悲です。あなたはレオダスに懐いていましたからね。冷静な判断が出来ないと解っていた。だから相談するだけ無駄だと思ったんです。死んだことにしたのもそれが理由です。あなたもクレアも聞き分けが悪い。そうでも言わないとこの足手まといを引き留めたでしょう。そして、その先に待っているの全滅の二文字です。私はそれを回避したかった」


 セリシオはニコリと笑った。


 それが正しいことだと、子供を諭すように。


 俺はこいつに対する怒りも憎しみもスッと引いていくのを感じた。


 馬鹿だこいつは。


 それでアトスとクレアが納得すると思っているのか?


 そればかりか、怒りを更に煽っている。


 こいつは自分を天才と言って憚はばからないが、煽りの天才とは言えるだろう。


「レオダスは僕らに必要な人間だ。彼が抜けてからの僕らの体たらくをみても、それが解るだろう」


「違いますね。頭数が足りなかった。それだけです」


「ステラを入れた」


「フッ。その女ですか?」


 セリシオはステラを見つめ、鼻で笑った。


 それに対し、ステラも俺同様に怒りはせずにむしろ哀れとも取れる表情を作る。


 それが気に入らないのか眉間に皺を寄せ、セリシオは怒りを発した。


「理解できていませんね。この女は我々を侮辱したのですよ? そんな女の意見を聞き入れ重宝しようなど、嘆かわしいにも程がある!」


「なんか、言うのもバカバカしくなってきたんだけどね。誰が入っても即興でレオダスさんの真似は出来ないよ?」


 ステラがどうでもよさそうに言うと、セリシオはため息をつく。


「自分のことを分かっていない人間は、どうしようもありませんね」


「それ、そっくり返すわ。てか、答えるのが阿呆らしくなってきたなぁ」


「貴様・・・」


 セリシオから魔力が漏れる。


 このままここで戦闘を始めようとでもいうのか?


「そうだね」


 アトスがそう小さく言った。


「こんな下らない会話は早く切り上げよう」


 アトスの言葉に気をよくしたのか、セリシオは魔力を鎮め、アトスを見つめる。


「私に黙って行ってしまった点は納得できませんが、まあ、衝動を抑えられない年頃です。仕方ありません。これからは相談役の私に必ず一言言って下さいね?」


「『これから』はないよ」


「え?」


「セリシオ、君を追放するよ」


「・・・・・・・・・・・・あ?」


 セリシオがポカンとしながら硬直した。


「君とはもう仲間でいることは出来ない。これからは新生パーティーを組んでやっていくよ」


「何を馬鹿なことを」


 冷静を装っているが、顔が真っ青だ。


「そんなことが許される訳がないだろう! 私は賢者。大賢者セリシオですよ!!」


「『なんちゃって大賢者』ねー」


「五月蠅い!!」


 ステラにツッコまれ、セリシオは目を充血させた。


「セリシオ。ずっとお前に言いたかったことがある」


 アトスはすぅと息を吸った。


「僕を子供だからとあまり馬鹿にするな!!」


「な、何を言っているのです! あなたは私の言うことを聞いていればそれでいいのです!」


 驚きつつと、セリシオは大声を上げ、逆上した。


「あまり大声を出さないでね」


 ここで、アティが前に出た。


 セリシオはいきなり口を挟んだアティに怒りをぶつける。


「なんですかあなたは? 女が口を出す場面ではありませんよ。控えなさい」


「それはこっちのセリフよ」


「・・・なんですって? 生意気な女」


 再びセリシオは魔力を身体から放つ。


 こいつ、単に魔力の制御が出来ていないんじゃないのか?


「・・・あのね、その『女、女』ってやめてくれる? あんた男の人を『男、男』って言う? それすごい女性蔑視よ。我が国ではね、そういうの許されないの!」


「生意気な。なにが我が国ですか。なんなんですかお前は」


「賢者セリシオ。あたしの顔を見忘れた?」


「ふざけるな。小娘の顔などどうでも・・・どうで、も」


 少しづつ、声が小さくなっていく。


「ま、まさか、アティシア王女、殿下?」


 愕然としたセリシオはガクガクと震えながら膝をついた。


「セリシオ。レオダスはお父様が選んだ人材。勇者アトスならばともかく、あなたの一存で追放していい存在ではない筈」


「し、しかし」


「言い訳はお父様にして」


「は? え、陛下に・・・?」


「当然でしょう。国王の意向を無視したんだから。因みにお父様も相当怒っているから」


「あ、う、あ、あ」


 顔を蒼白にしてセリシオは震えた。


 セリシオ。

 これまで身勝手に振舞ってきたツケが回って来たぞ。

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