第47話カルルタート山の攻略は難しい6

「“エアブレード”“エアブレード”!」


 アティは風の刃を二つ同時に放った。


 相変わらず同時起動は見事の一言。


 素養のない俺には不可能だ。


 アティは四代元素である火、水、風、土の四属性が使え、上級である雷、闇、光は使えないとの事。


 だが、四属性に限って言えばセリシオよりも上の術者なのではなかろうか。


 強い。

 逃げ腰なセリシオよりも勇気があり、体術も習得している彼女は、経験を積めばとんでもない達人になる。


 向かってくる木の根を風の刃で斬り、残りは杖で払う。


 まだまだ攻撃は止まらないが、これだけ間が出来れば十分だ。


「アティ、下がれ!」


「うん!」


 アティが下がったところへ、俺は渾身の魔力を込めて、魔法を放つ。


「“ファイアボール”!!」


 出現した巨大な火の球。


 それが木の根を焼き尽くし、トレント本体に迫る。


 トレントは木の枝をバリケートにして防ごうと試みるが、衝撃で吹き飛ばし焼き尽くし、本体にダメージを与えた。


 凄い衝撃が波となって辺りに広がる。


 黒い煙が徐々に晴れ、トレントを見れば、完全に消滅してはいなかった。


 だが、ごっそりと食らった部分は消失し、大ダメージを受けている。


 それでも戦意は衰えていない様子で、残った枝を俺達に振るう。


「まだやる気なのか!」


 凄まじい執念だ。


 一体何がトレントをそこまでさせるのか。


 よし。


 俺はトレントに向かってダッシュした。


「あ、レオダス」


 そして、ごっそりと削れば部分に向けて、蹴り!


「ええ!?」


 アティが後ろで驚くも、お構いなしに、蹴り、蹴り、蹴り!!


 蹴るたびに、ミキミキと音がして、トレントが傾いていく。


 そして、一定まで蹴ると、遂に折れて倒れ始めた。


「よし、やったぞ」


「・・・す、凄い」


 普通に考えたら絶対に出来ない力技だ。


 やはりレベル70。

 規格外もいいところだ。


 これで片付いた。


 そう思った時、トレントが倒れる位置に俺は注目し、顔を引きつらせた。


「ま、不味い!!」


 俺は倒れるトレントを受け止めた。


「ぐ、ぐぅうう!!」


 凄まじい重量だ。


 如何にレベル70の腕力といえどもこれは厳しい。


「レ、レオダス。何やってるの!?」


 アティは悲鳴を上げた。


 折角倒したというのに、自分から無意味な危険に飛び込むなど暴挙よりも酷い自殺行為だ。


 だが、決して無意味じゃない。


「後ろを見ろ。特薬草の群生地だ!」


「ああ!!」


 そう。

 この後ろには特薬草が生えている。


 エリクサーが作れるかもしれない、貴重な薬草だ。


 ここで潰してしまうには余りに惜しい。


 すると、アティもこちらに寄って受け止めようとした。


「アティ、無茶だ!」


「それはレオダスも一緒でしょ!!」


 確かに無茶は無茶だ。


 だが、俺が抑えることには意味がある。


 申し訳ないがアティが抑えたところでどれだけ意味があるのか疑問だ。


 止めさせようと思った時、あるアイディアが頭に浮かんだ。


「アティ、空気を圧縮した魔法を撃てるか!?」


「撃てるよ」


「よし撃て」


 これでもどれだけ意味があるか分からない。


 だが、俺と合わせれば。


 俺は包み込むようにアティの後ろに立った。


「レ、レオダス?」


「俺の魔力をアティに流す。これで打てばいけるんじゃないか?」


「で、でもそれって凄い高等技術だよ!?」


 自分の魔力を他者に流す。

 非常に高度な技術だ。


 それでも今の俺ならば、

 可能性があるならば。


「行くぞ!」


「分かった!」


 俺の魔力がアティに伝わる。


 それがアティの中でアティの魔力と混ざり合い、一つになる。



「す、凄い。これがレオダスの魔力」


 くっ、難しい。

 レベルが上がっても技術は上がらないからな。

 じゃあ、ダメじゃねーか。


 これ以上は不味い!


「撃て、アティ!」


「“エアボール”!!」


 アティから現れた空気の球がトレントに激突。


 その衝撃で倒れそうなトレントが浮き上がった。


「いいぞ。少しづつ俺達の身体をずらすんだ」


「う、う、うぅ」


 ギギギと前へ進もうとする圧縮された空気をずらし、特薬草の群生地から外れた位置に何とかトレントを着地させた。


 ズ、ズズゥンという音を立るトレント。


「な、なんとかなった」


「はぁはぁ、やったね」


 俺とアティは向かい合い、ペタンと尻もちを着いた。


「はは」


「へへ」


 手を伸ばしてハイタッチ!


 やり切った達成感で俺達は満たされていた。


「特薬草は、無事、だな」


「そうだね、やったね」


「ああ、立てるか?」


 俺はアティに手を差し伸べると、弱弱しくはあるものの、彼女はしっかりと俺の手を握る。


「ほっ、よっと」


 覚束ない足取りで立ち上がるアティを俺はそっと抱く。


「レ、レオダス」


「君のおかげだ。俺だけだったら無理だった」


「う、うん。ありがと」


 俺はアティから離れた。

 彼女は何故かそれを寂しそうにちょっと手を伸ばして引っ込めた。


「今日はここでキャンプをはろう。これだけの騒ぎだ。他のモンスターも近寄らないさ」


「そうだね。流石に疲れちゃったよ」


 放ってしまった荷物の中身の中から特薬草が無事なのを確認し、テントを引っ張り出す。


「こいつはギルドに報告しなければならないことがいっぱいだな」

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