第34話アティの実力
さて、と。
俺は刃のない剣を構え、アティと向かい合う。
彼女には悪いが、俺から見て力量が不十分だと思ったら今回のクエストには連れてはいけない。
アティにも言った通り、この先クエストはいくらでも受けられる。
最初にこんな高難度のクエストに連れて行き、何かあったら目も当てられない。
今の俺の力なら一人でも十分と思うし、ハッキリ言って足手まといになりかねない。
それでも切り抜ける自信はあるものの、過信は油断に繋がる。
アティには最低限、自分の身を護れるくらいの力を示してほしい。
何も彼女に意地悪をしているわけでは無い。
相応の力を示してくれれば連れて行くのもやぶさかではないのだ。
緊張した面持ちで、彼女も杖を構えた。
「騎士団長にも鍛えられたと言っていたけど、杖で行くんだ?」
俺の質問にアティはコクリと頷き、同時に杖をくるりと回して見せる。
それだけで、彼女の棒術が一定の力量に達していると理解できた。
なるほど。
彼女の杖はそれ自体が打撃武器であり、魔力を増幅させるアーティファクトなのだ。
「じゃあ、実戦を想定して戦おうか。接近戦でも魔法でもなんでもいいぞ。かかってこい!」
「う、うん」
「そう硬くなるなよ。それじゃあ力を発揮できないぞ」
アティは俺の助言が気に入らなかったのか、口を尖らせる。
「そっちが緊張させること言ったんじゃない」
「まあ、確かに言ったけどな。クエストには常に命の危険が付きまとうんだ。それくらいで緊張してどうする?」
「それは、そうだけど・・・」
厳しくそう言うと少し体を縮こませる。
なんとかこのプレッシャーを跳ね除けて、力を発揮してほしい。
「行くね!」
覚悟を決めたのか、彼女は杖を突き出す。
「本気でいっちゃうからね! “ストーンバレット”!」
アティの前方に出現した石弾が俺に受かって飛んでくる。
いい威力だ。
速度も申し分ない。
俺はそれを剣で弾く。
それを想定していたか、アティは再び魔力を込める。
「“エアボール”!」
風を圧縮した球を撃ち出した。
今度は横に跳んで躱す。
そのままアティに向かってダッシュ。
一瞬顔を強張らせたものの、すぐに対応してきた。
「“ファイアバレット”! “アイスバレット”!」
「何!?」
別種の魔法を同時起動だと?
凄いな。
火の方はこの剣では斬れない。
俺は氷の方を弾き、更に前へ―
「はっ!」
なんと、アティの方から前へ出て来る。
こいつは虚を突かれた。
間合いを活かし、連続で突きを繰り出し、俺との距離を測る。
ぐるんと下から上に杖を振り上げ、それが俺の顎スレスレをかすめる。
今のはひやっとしたぞ。
杖を回し、中央で持ち直し、ぴたっと腰で止める。
堂に入った構えだ。
一朝一夕で出来るものではない。
そのまま飛び上がると、杖での打ち下ろし。
長い金属棒での振り下ろしは軽い体重のアティでも十分な威力に成りうる。
俺はそれを軽々と受け止める。
軽々といっても、俺のチートスキルがなければ、強く踏ん張らなければならなかっただろう。
「よし、一対一での対人戦闘は十分、」
「“ファイアバレットォ”ーー!!」
「んな!?」
目の前に出現した火の弾。
思わず俺はアティを剣で押し返し、そのまま身体を斜にしてギリギリで躱した。
あ、あっぶねー。
前の俺だったら、今の食らってたんじゃないか?
アティはむくっと置きながら、首を傾げる。
「今なんか言った?」
「い、いや、アティの力は十分分かった」
「ほ、ほんと! それでどう?」
俺は顔を引きつらせ「そ、そうだな。まだ粗削りだが、見所はあるぞ」と、言う。
「やったー!」
ぴょんぴょんと跳んで喜んでいるアティを俺は引きつらせた顔のままに見ていた。
確かに、この子はマジ強い。
接近戦と魔法の達人から習っていただけのことはある。
もしかして、さっき戦ったクレイよりも強いんじゃないだろうか?
「じゃ、じゃあ、あたし付いて行っていい?」
期待の目で俺をアティは見つめる。
だが、俺は首を横に振る。
「えー、なんでー!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます