第30話宣告

 聞いたことがある。


 ドラゴンを始めとした固い鱗、甲殻で覆われたモンスターですらも斬り割く、名剣。


 これがそうか。


 俺が前に使っていた剣よりも上等だ。


 これが良い。


 これがほしい。


 さて、問題は・・・。


「いくら?」


 恐る恐る尋ねると親父はニヤリと笑う。


「白金貨一枚」


「・・・マジかー」


 白金貨。

 金貨百枚の価値がある硬貨じゃないか。


「だけどあんたになら金貨80枚で売ってやってもいい。どうだ?」


 この親父。


 腕が立ちそうな人間なら誰でもこの剣進めてるだろう。


 普通に考えたらそんな金あるわけがない。


 だが、


 だが、今の俺には。


「買おう」


「おおおお!」


 おっちゃんは歓喜に打ち震えた。


「買ってくれるか!」


 俺の手を掴んでブンブンと振り回すおっちゃん。


「お、おう」


 泣きそうなんだか?


「いやーよかった。あまりにも高すぎて誰も買ってくれないからどうしようかと」


 ・・・おい。


「さ、カウンターに行こうぜ。さっさと清算を済まそう」


「お、おいおい。大丈夫だ。心変わりなんてしないよ。ちゃんと買うから!」


 頼もしい愛剣を手に入れた。


 この後、無難に上等の鎧と道具を購入し、俺達の準備は整った。


*********


 アティはウキウキしていた。


 旅の支度が整い、今日がカルルタート山出発の日だと思っているらしい。


 だけど、そんなつもりは欠片もない。


 俺は彼女を引き連れて、王都から少しだけ離れた平原にやってきた。


「ねえ、どうして準備が出来ているのに、こんな所に連れて来たの? 早く行こうよ」


 アティは不満気に口を尖らせる。


 昨日は興奮していたのか余り眠っていないようだ。


 一日とは言え、旅をしなければならないのだから体調管理はしっかりとしなければならないというのに。


「悪いけど、まだ旅には出ないよ」


「ええーーーー!」


 アティは驚いて目と口を大きくした。


「なんでなんで!? 準備は整ったんじゃないの?」


「道具のな」


「他に何があるっていうの?」


 ブーブーと文句を言うが、これは非常に大事なことなんだ。

 最もと言ってもいい。


「アティ。君の実力を知りたい」


 これに彼女は目を丸くする。


「あれ? 聞いてなかった? あたし強いよ。騎士団長アールベルトと、宮廷筆頭魔法使いを先生に鍛えられたんだから」


 えへんと彼女は胸を張る。


 胸を、張る?


 ・・・今後に期待だ。


「何?」


「ああいや、王様もそう言っていたよ」


 ついでも自分も強いと言っていたけど。


「でしょう。だから問題ないって」


 これに俺は首を横に振る。


「君が強いのは対人戦じゃないのか? モンスターと戦った経験あるか?」


 これに彼女は「うっ」と顔を歪める。


「い、一、二回」


 あくまでも経験の為という程度なのだろう。


 だけど、それだけじゃ駄目だ。


「アティ、これから行くカルルタート山は上級のモンスターがわんさか出てくる高難度ダンジョンみたいなもんだ。いくら対人戦が強くても、そうそう簡単に行ける場所じゃない」


「う~~」


「うーじゃない。それに対人戦も一対一が多かったんじゃないか? 一人で複数を相手どった経験があるか?」


「えーと、それは経験がある」


 なるほど。

 それは上々だ。


 だが、それでもだ。


「じゃあ、障害物とか入り組んだ建物内で戦った経験は?」


「・・・えっと、ない」


 やっぱりか。


「今日戦った演習場とかで修行していたのか?」


「うん、そう」


 頭をかく。


「今から行くのは山だ。木とか岩とか霧とか、視界を遮る遮蔽物は多いし、そんな中から複数のモンスターが出てくる。後ろからの奇襲なんて当たり前。遠距離攻撃だってしてくるだろう」


「・・・」


 遂に黙ってしまった。


 でも、言わなくては。


「これから君を訓練する。俺と一対一での模擬戦は勿論、初心者向けのダンジョンに潜ってもらって経験を積ませる」


「で、でも、もう依頼は受けてしまったじゃない。そんなことをしている時間なんて!」


 アティは必死に食らいつくが、それでも俺は首を横に振る。


「今回の依頼はあくまでも採取だし、直接誰かが困っているわけじゃない。一刻を争う必要はないんだ。猶予はあるさ」


「・・・でも」


 俺は少し腰を落とし、彼女に目線を合わせる。


「これから俺達は沢山のクエストを受けるだろう。だから、最初のクエストで間違っても倒れるわけにはいかないんだ」


「そう、だね。分かった」


 アティはコクリと頷いてくれた。


 さて、と。


「訓練を始めよう。ただ、俺が見て君がカルルタート山に行くだけの実力がないと見極めたら」


「た、たら?」


 ゴクリとアティは唾を飲み込む。


「今回のクエストは連れて行かない」

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