第29話ドラゴンスラッシュ

 さて、いきなり高難度のクエストを受けた俺達はまずは装備を整えることにした。


 ありがたいことに、王様から潤沢な軍資金をいただいてる。


 ぶっちゃけ依頼なんて受けなくても、この金があれば働かずとも贅沢な暮らしが出来るだろう。


 無論、そんな選択肢を選ぶつもりはない。


 俺は“冒険者”という生き方を選んだのだ。


 金を稼ぐ事は生きていく上で当然大切なことだが、ただ、金儲けをしたいからじゃない。


 さっき気が付いた。


 勇者だけが世界を救えるわけではない。


 依頼を誰かが出すってことは、困っている人がいるってこと。


 それを助けるってのは、言ってみれば世界の一部である誰かを救う、世界を救うってことになるんじゃないのか。

 まあ、セリシオ辺りが聞いたら鼻で笑うだろうけどな。


「まずは剣を買おうと思うんだけど、どうだろうか?」


 俺はアティに尋ねた。


 彼女と俺は今や運命共同体だ。


 アトスとの関係の様に、まずは相談してから決めたい。


 アティは首を傾げる。


「今まで使っていた剣はどうしたの?」


「あー、それはだな・・・」


 俺はこれまでの事情を説明した。


 するとアティの顔が赤くなり、遂に噴火する。


「何よそれは―――――!!」


「うぉっ!」


「共同財産だっていうなら、レオダスが抜けた時点でその共同の一部がレオダスに移るってことじゃない。なのになんの装備も、ていうか、何も渡さずに追放するなんて、セリシオは一体何を考えてるのよ!」


「は、はは」


 銀貨一枚は貰ったけどな。

 それを言ったら火に油を注ぐことになるだろうし、あの時は俺もなんなんだこいつはと思ったものだ。


 アティは乙女的にどうかと思う程、その場で地団駄を踏む。


「ありがとなアティ」


「なんであたしにありがとう?」


 彼女は首を傾げるが、それがまた俺には嬉しかった。


「君が俺の為に怒ってくれて嬉しいんだ。そういう人間がいるってだけで俺は幸せだよ」


 すると彼女は礼を言った俺を不思議そうに見た。

 それってつまりは当たり前だからだ。

 当たり前に俺を想ってくれる。

 それが嬉しいんだ。


 アティは照れているのか、頬を赤らめて口をふにゃふにゃと曲げる。


「ま、まあね。あたし達もう仲間じゃない? 当たり前でしょ」


 俺は頷く。


「そうだな。俺もアティが同じ目にあったら同じ様に怒るだろう。当たり前だな」


 俺はニカっと笑うと彼女もそう返す。


「そう、当たり前」


 しばらくそこで笑い合った。




「そんなわけで俺には今、二本の剣がある。一つは前の町で武器屋の親父さんから買った切れ味の悪い剣。もう一つはスケルトンソードだ」


 アティはそれを聞いて苦笑する。


「何というか、ギリギリで生きてるって感じ?」


 俺も苦笑で返した。


「武器屋の親父さんから買った剣は値段とかじゃない。プライスレスだ。スケルトンソードに関しては売ってもいい。鞘のない剣が売れるかどうか判らんけどな」


「そうね。捨てる神あれば拾う神あり。その武器屋のおじさんとの出会いはとっても大切よね」


「ああ。それで一応鞘のあるちゃんとした剣がほしい。後は冒険者に必須な道具もあれこれ」


「どんな道具がいるかな?」


 アティの問いに、俺は顎に手を当てた。


「そうだな。やっぱり回復アイテムは必須だろう。それに今後のことを考えればキャンプ道具一式はほしい。順調にいっても一日じゃ帰れないし、当然水と食料は持っていく」


「ふんふん」


「他にも細々とした物を上げればキリがないが、それは考えながらにしようか」


「分かったわ」


「まずは武器防具だな。それを買いに行こう」


「あたしは大丈夫よ。武器はこの魔法の杖があるし、防具だって今着ているの魔法の法衣って言って、鎧じゃないけど防御力は確かなものだから」


「ほぅ?」


 アティは彼女の肩の辺りまである杖をくるりと回し、今度は法衣をつまむとくるっと回って見せた。


 なるほど。

 王女様が使う装備なら、どれをとっても一級品なのだろう。


 そんじょそこらの装備とでは比較にならない。


「なんだったらレオダスも王宮に戻って何か貰ってくる?」


 アティはそう提案した。

 一考するが首を横に振る。


「そう? 遠慮はいらないわよ?」


「確かに、これ以上世話になるのはどうかって気持ちもないわけじゃないが、命を預ける装備なら自分で選びたいからな」


「そういうもの?」


「そうだな。後はダンジョンで手に入れた装備とか、モンスターを素材として作ったやつとか、胸が熱くなるじゃないか?」


「うーん。むむむ」


 おや?

 理解出来ないのだろうか?


 この辺ロマンを求める男と女の違い?


 もしくは、冒険をしていた俺と、なんにも不自由なく生活していたお姫様との違いだろうか?


「・・・なんとなく、解る気がする」


「それは良かった。じゃあ、武器防具の店に行こう」


「うん!」




「らっしゃい!!」


 俺達がやってきた武器防具の店。


 店内に入ると、前の町であった親父さんよりも、更に筋肉のあるおっちゃんが野太い声で接客する。


 まずは店内に飾ってある武器を物色。


 自分に合った物があるだろうか?


 俺がずっと使っていた剣は、流石勇者パーティーの武器というだけあって、一級品の剣だった。


 あれ程を望むつもりはないが、それでも良質の剣がほしい。


 あれこれ見て回り、気になった物を見つけては振って見たり矯ためつ眇すがめつ観察する。


 何本か気に入った物を見つけた。

 さて、どうするか?


 顎に手を当て思案していると、おっちゃんが声をかけてくる。


「あんた、慎重だな」


「命を預けるんだ。当然だろう?」


「違いねぇ。かなりの腕と見た。そんなあんたにこれを薦めたい」


 おっちゃんはそう言うと、店の奥へずずいっと俺を招き入れ、一本の剣を手渡す。


「・・・こいつは?」


 俺は鞘から剣を抜く。


 美しい刀身。


 軽く、それでいて粘りがあり、しなやか。


 コツコツと刀身を叩いてみると不思議な音がする。


「金属じゃないな」


「その通り。これはドラゴンの牙から作られた逸品。ドラゴンスラッシュだ」


「ドラゴンスラッシュ」

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