第14話 ハーブティーとガヴァネスのように



 そっと近寄ると、ソファで項垂れているのは、アレクサンドルだと解る。


(何かお悩みなのかしら?)


 システィアーナから見て奥の方から、ファヴィアンが現れて、アレクサンドルに何か言うが、頭を振るだけで、顔を上げる風はない。


 見てはいけないものを見たような気がして、そっと離れようとしたけれど、ガラス張りのサンルームからは、当然遮る物のない屋上に立っているシスティアーナは丸見えである。


「システィアーナ?」


 アレクサンドルが気づいて呼び止めると、ファヴィアンが素早くガラス戸を開けて、中へと視線で促す。


 こうなると、知らぬ振りも出来ず、お邪魔しますのひと言で、中に入るしかない。


 ファヴィアンは、探していたという割に何も話さない。

 或いは、個人的な内容で、王太子の前で話しにくい内容なのかもしれない。


 一人掛けソファに座り直し、深く息を吐き出し沈み込むアレクサンドル。


「あの、お加減が良くないのですか?」

「ああ、心配ないよ。少し、寝不足なだけだから」

「心配しますわ。寝不足は、あらゆる不調を呼び起こしますもの。お忙しいのですか?」


 茶の用意をしようとしていたファヴィアンを制し、システィアーナが用意を始める。


「忙しいと言えば忙しいけど、まあ、いつもの通りだよ。それよりも、横になるまで資料を読み込むからかな、頭がどこか冴えて眠れなくてね」

「それは良くないですわ」


 カモミールとりんごの皮のドライフルーツにレモンバームをブレンドし、お湯を注いでカップには蜂蜜と共に淹れる。

 お茶に直接ではなく、テーブルに添えられた水差しの下のペーパークロスに、ラベンダーの香料を数滴落として香りを立たせる。


「さあ、これを飲んだら、少し休んでください」


 まるで、聞き分けのない子供に諭す女家庭教師ガヴァネスのように、目力をこめて王太子アレクサンドルに命じるシスティアーナは、いつもより強気だった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る