第13話 足の速いファヴィアンを追いかけて

 来た道を本宮へ向かって歩くシスティアーナの目の端に、銀髪が映る。


(あの高身長からの長めのプラチナブロンドは、ファヴィアン様よね?)


 廊下の端から端へ姿を消すが、本当にファヴィアンか確かめるべく、急ぎ足で追いかけるシスティアーナ。


 階段を上がっていく後ろ姿が見えるが、すぐに踊り場から上へ上がる階段へと消える。


(やっぱり、ファヴィアン様よね)


 間違いないとは思ったが、声をかけるのを躊躇われる後ろ姿。

 元々、明るく「やぁ、システィアーナ嬢」などと返すタイプでもないし、システィアーナはあまりアレクサンドルと公務は重ならないので、ファヴィアンとも親しくはしていない。

 どちらかと言えば、オルギュストの兄としてのファヴィアンか、子供の頃に何度か王宮でお守りをしてもらった思い出の方がまだ、馴染みがあるかもしれない。


 今、追いかけているのがファヴィアンではないのではないかと、不安になって来た。


 でも、あの長い足で淀みなく綺麗な姿勢で意外に速く歩くのは、何より銀髪が、ファヴィアン様だと思うのだけど。


 この辺りは、奥宮と王太子宮の繋がる辺り。でも、隣接しているのに壁があって、中では繋がっていないはず⋯⋯


 大雑把に言えば、王宮の、本宮と奥宮は繋がっていて大小の箱がくっついたような造形だが、王太子宮は後から隣にもうひとつ箱を持って来て置いたようなものだ。

 一階の入り口付近と屋上は繋がっているが、途中の階は、元々ある城壁に穴を開けてまで繋げてはいないのだ。


 システィアーナの考え通り、ファヴィアンは、屋上まで階段を上り、普段鍵のかかった扉を開き、出てしまった。


 王太子宮に行くのに、なぜ態々わざわざ屋上に上がるのか?


 足の速いファヴィアンを見失わないように追いかけるのに、少し息が上がり、弾む胸を押さえながら、屋上に出る。


 システィアーナは、屋上へ出るのは初めてであった。

 幼児の頃に祖父に連れられて上がったかもしれないが、当時の王太子宮の主はエスタヴィオ。

 屋上に上がるなら、本宮か奥宮の庭が見える辺りだろう。


 王太子宮への繫がりを渡った辺りに、ガラス張りのサンルームが見える。


 ──こんな所に、サンルームが?


 王族と一部の護衛官しか見ることの出来ない場内見取り図にも載っていないはず。


 そっと近寄ると、華奢な猫脚の家具やソファセットがあり、ローテーブルに名匠の茶器が置かれていた。


 三人掛けソファの真ん中に、人がひとり座り、膝に肘をついて頭を支え、項垂れている。


 ──どなたかしら?


 システィアーナは、初めて見る小部屋に、そっと近づいた。




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