第6話 アナとフレックの秘密計画?

 自分の事で、仲睦まじさで知られるフレック夫妻が言い合いをしているので、中に入りづらい。

 それはアスヴェルにも解るので、無理に促そうとはしない。


「とにかく、今日のデートは、デュバルディオ殿下が前からシスティアーナに宣言していたものであって、私が無理に送り出したものではありません。護衛官もつくし、侍女だって伴っての街歩き程度、目くじらを立てることもありませんでしょう?」


 いつか言っていた街歩きに連れ出すというヤツか。今日だったのか。


「デュバルディオ殿下に肩入れしている訳ではありません。エルネストにだって、連れて行ってあげてねと言ってあります。

 それでも不公平だとか可哀想だとか言うのなら、それは貴方が悪いのよ」

「僕が?」

「システィアーナを誘うには、エルネストに、同じ日に休みをあげなくちゃいけないわ。餌やご褒美を与えるのは主人の務めでしょう? エルネストがシスティアーナをデートに誘えないのは、貴方のせいよ」


「俺は、犬か⋯⋯」

「いや、そういう意味で言ったんじゃないと思うよ。単なる例えだろう」


 夫婦のあけすけなやりとりに、アスヴェルもフォローせざるを得ない。


「直接の上司はアスヴェルだから⋯⋯」

「2人を護衛として使い、更にはエルネストに秘書官もさせているのだから、貴方が管理者でしょう?」

「はい。すみません」


 アスヴェルは、珍しくやり込められるフレックの声に、笑いを堪えるのが苦しかったが、隣の暗い表情のエルネストの手前、笑うに笑えなかった。


 ただ2人とも、中に入るタイミングを逸してしまった。



「エルネスト。何をしている? 入らないのか」


 園遊会以降、アレクサンドルの補佐官兼執務室長に戻ったファヴィアンが、ちょうど階段を上がって来てみんなの居る部屋へ向かって廊下を歩いてくるところで、ドアのノッカーとハンドルに手をかけたまま動かないエルネストに声をかける。


「あ、いや、うん。入る、よ」


「とにかく、デュバルディオ殿下がシスを遊びに誘っても、結果貴方の大好きなエルネストが辛そうにしてても、私が意地悪をしている訳ではありません!

 だいたい、オルギュストがヘンな時期に婚約を破棄するから、このままじゃ私達の計画だって狂ってしまうわ。やるならもっと何年も前にしろって言いたくなるわね。本当にはた迷惑なあのお莫迦バカさん」


 かなり長身のファヴィアンは、エルネストを見下ろす。


「フレックお兄さまもアナもそこまでにしたら。そろそろ、エルネストやファヴィアンが戻ってくる頃じゃないかしら?」


 ユーフェミアが2人に割って入ったようだ。

 素直なアルメルティアが、兄夫婦に、素直に疑問をぶつける。


「アナやフレックお兄さまの計画ってなあに? シスが関係あるの? シスが結婚してないと計画倒れになるの?」

「ええ、そうよ。シスが結婚してる前提での⋯⋯」


 そこで、ファヴィアンが扉を開けてしまった。


「フレキシヴァルト殿下、アナファリテ妃。お二人の声は、廊下にも聴こえていますよ」


 ファヴィアンの後ろに立つエルネストを見留め、二人は気まずそうに顔をそらす。


「エルネスト、いつからそこに⋯⋯?」


 フレックが不安げに訊ねるが、答えにくい。どこから何を聞いたのかまで答えなくてはならなくなりそうだから。


「私が階段を上がって廊下に出たら、ちょうど扉を開けようとして躊躇していた所だったよ」


 僅かに嘘を交えて答えるファヴィアン。


 扉を開けるに開けられない状況を打開してくれたのは感謝するが、システィアーナが結婚している前提での計画とはなんなのか、それこそ訊くに訊けなくなってしまう。


 エルネストをかばうファヴィアンの真意はどこにあるのか。

 そもそも庇ったのか?

 二人の計画とやらを聞かせないために、わざと扉を開けたのか?


 エルネストには、問い質す事は出来なかった。




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