第24話 苦情と苦言とトラブル対応

 ──王家主催の園遊会


 国王を主催者ホストとし招待客ゲストねぎらいもてなす大規模なお茶会。人数が多いため、その多くはガーデンパーティーで行われる。


 マリアンナは使節団の一員として入国したものの、クリスティーナ妃の母国の王太子息女。賓客扱いで、園遊会に席を設けている。


 つまり、形の上では国王の招待客。


 その客であるマリアンナを怒らせたとなれば、エスタヴィオの顔に泥を塗る行為に値する。


 システィアーナは、エスタヴィオの臣下でまだ家名を継いでもいない侯爵令嬢。

 顔面蒼白に固まる女官も、王族の身の回りを世話する高給取りの上級女官だが侯爵家の令嬢で次女。当然マリアンナよりも身分は下で、システィアーナよりも序列は下である。

 その侯爵令嬢に飛び込んでしまったマリアンナが連れて来た侍女も、いつもの娘ではないが、蒼白い顔で地に手をついて俯きカタカタ震えているし、恐らく王族ということはないだろう。


 三人とも、王女に失礼をして、無事でいられる身分ではなかった。


 マリアンナが言うように、システィアーナが茶を浴びせかけた訳ではないが、自分が席を断り強引に身を引いた事が原因で起こった事故。


 国王の招待客に不快な思いをさせたのも事実。


 ならば、三人の中で一番身分が上の自分が、この場を収めなければならない。


「わたくし共の不手際で不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ありませんでした」


 両手を揃えて上半身を深く下げ、謝罪するシスティアーナ。


 茶をわざとかけたという言い分を認める事は出来ないが、不快な思いをさせた事のみ、詫びる。


 だが、マリアンナはそれでは溜飲を下げなかった。


「手際? 不快な思いなんてものではないでしょう? このドレス、どうしてくださるの? 侍女が季節に合わせた色をと言うから淡い色のドレスにしたのに、お茶が染みて泥のようだわ」

「申し訳ありません。すぐに替えのドレスを用意させますし、しみ抜きに出して、印象も変わるようリメイクもしてお返しいたしますから」

「弁償すればいいってものでもないでしょう!? 人前で恥をかかせておいて、着替えを用意して終わらせるつもりなの?」


 甲高く苛ついたマリアンナの声は大きく、辺りに響き渡る。


 だんだんこちらを覗う人物が増えてきた。


「だいたい、あなたはいつも私の邪魔をしたり、文句ばかり言って、本当に客をもてなす気持ちがあるのかしら?」


 言いがかりとも言える、曲解である。


 不可能な要求を押し通そうとしたり、(自国ではなくコンスタンティノーヴェルの)国庫負担で贅を浴したり、周りへの負担や使節団の一員としての立場を越えた行動に、諌めざるを得なかったのは、マリアンナ自身の不心得で、システィアーナとて心苦しかったのである。

 それとて、クドクドと厭味や叱るようにではなく、子供を諭すようにやんわりと遠回しに願う形で述べたに過ぎない。

 

 マリアンナの威丈高でヒステリックな文句は、まだまだ続いている。


 人目を引かない筈もなく──



「なんの騒ぎだ?」


 遂に、国王エスタヴィオの登場である。




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