第21話 正直な姫君

 だんだん解ってきた。


 アレクサンドルやユーフェミアには殆ど逆らわず、なるべく側近くに居たがり、自身の血縁の中でも特にデュバルディオがお気に入り。

 伯爵家子息の美青年近衛騎士や公爵家の美丈夫アスヴェル、エルネスト、寡黙で貴公子然としたファヴィアン。


 どうやらマリアンナは、美形に目がないだけではなく、そこにノーブルさがあればあるほどいいらしい。


 特に、アレクサンドルとファヴィアン、アスヴェルは、王家・王族公爵家の嫡男として、いつでもどこから誰に見られてもさすがと言われるくらい隙のない、気品と知性を感じられる所作を徹底的に、意識せずともそう動くように身につけている。


 自身も王太子の息女という身分であろうに、高貴で気品あふれる美形に憧れ惹かれるらしい。


 ──人は、自分にない物を持つ者に惹かれると言う


 もありなんと、エルネストは心の中で頷く。

 それは、初めて会ったユーヴェルフィオやファヴィアンにも察せられたようだ。


 ユーヴェルフィオが従妹姫の紹介をしたが、聞いていないのは明らかだった。


(これは確かに、アレクやユーフェミア殿下が頭を痛める訳だ。一国の王族だというのになんとも俗物っぽいものだね)


 他人事のように納得するユーヴェルフィオ。

 視線だけをファヴィアンに送るが、彼もまた同様の感想なのだろう、一瞬だけ視線を交わし、すぐに何もなかったかのように手元の茶器に目を移す。


 ファヴィアンからの反応が殆どないのが残念そうではあったが、兄ユーンフェルトが席に戻ってきたので仕方なく帰っていく。


「己の感情と欲求に正直な姫君のようだね」


 システィアーナとエルネストは苦笑いだ。



 しばらくは何事もなく、ゆったりとした時間が過ぎる。


 従妹姫の希望で、ユーヴェルフィオがカロラインを連れて、テーブルを離れた。


「ファヴィアン様は、知人への挨拶はなさらないのですか?」

「⋯⋯朝議後の談話茶会や夜会でもない、陛下の御言葉を賜って茶菓子をいただくだけの園遊会だからな。

 そもそも、弟のやらかしから出仕は控えている最中だ。挨拶廻りせずとも周りは察してくれるだろう」


 システィアーナは訊いたことを恥じた。


 システィアーナにとっては、今までも居てもいなくても同じだった元婚約者と正式に関係を解消しただけだが、実際は、オルギュストの王命に背いての不当な婚約破棄として醜聞になっている。


 システィアーナはオルギュストとその兄ファヴィアンは別と思っているが、周りの貴族達は、オルギュストを御せなかった父セルディオも兄ファヴィアンも、連座で責任能力を問うものだ。


「気にするな。アレの勝手を許してしまったエルネスタヴィオ公爵家にも問題はあったのだ」


 好きにしろと許可を与えた訳ではないが、結果的にやりたいようにさせてしまっていたのだ。王命の重さをもっと理解させ、システィアーナへの態度を改善させるべきを怠ったのは紛れもない事実。

 まして、セルディオは王宮文官主任を、ファヴィアンは王太子執務室主任を拝命して、地位も責任もある立場の人間なのだ。


 職務が忙しくて手が回りませんでした、では済まされない。


 多額の金品と領地の割譲、オルギュストの辺境への左遷と今後コンスタンティノス姓(王家と王族傍系のみ使用可能な家名)を名乗る事も不可とされるなど、既に補償は済んでいるとは言え、それで周りの目が優しくなることはない。


 だが、ファヴィアンは現状を腐ることなく受けいれていた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る