第20話 藪から⋯⋯

 林道から、遠目に馬車が見えるようになる頃、背後の人物が距離を詰めて来た。


「エルネスト。先に言っておくけど、僕は戦力に期待しないでくれ」

「解ってますよ。二人をお願いします」


 後方に護衛騎士がいるとは言っても、エルネストは武装解除した状態である。

 従騎士スクワイアとしてつき始めたばかりの見習いであり実戦経験もなく、武器を持った輩相手に素手では、三人を守るのに防戦一方になりそうだった。


 相手も通りすがりを装うのを止めたのか、一気に駆けだした。


「エル従兄にいさま、気をつけて」

「エルネスト、怪我はしないでね」

「お前が居てくれて助かったよ」


 デュバルディオは妹と再従はとこ叔母おばの肩を引き寄せて、道の端に寄る。


 不審人物は、背後から二人、多少こぼれのある手入れの悪い両刃剣を振りかぶり、目的は解らないが一番障害になりそうな従騎士スクワイアの隊服を着たエルネスト目掛けて、大きく振り下ろして来た。


 一人目は、半歩後ろに下がって半身を交わすことで初撃を避け、振り下ろした男のつかを握る手を肘と膝で挟むように打ち付けた。

 さすがに剣を取り落とす事はなかったが、それなりに痛んだのだろう、握りが甘くなり、上手く振り回せないまま、護衛騎士に引き倒され、背を踏んで拘束された。


 二人目は、エルネストに到達する前に、追って来た護衛騎士に背後から斬り捨てられていた。


 が、これで終わりではない。


 馬車を待たせている広場に出る付近の林の中から、同様の武装した不審人物が数名出て来たのだ。


「お前達、何者だ!? いきなり斬りつけて来られる覚えはないんだが、どこかで会ったかな?」


「護衛騎士は邪魔ァだかリャ、斬るだけのコト。命惜しくバ、お貴族の娘を置いて立ち去りナヨォ」


 ──南海諸島の訛り!!


 ただの学のない食い詰め者風の物言いだったが、外交担当のデュバルディオとシスティアーナは、言葉の端に、南海諸島特有のなまりを聴き取った。


 南海の海上生活者のようだ。

 日に焼けた浅黒い肌と塩に焼けた白茶のパサパサした髪。盛り上がった筋肉。


 昨日面談した商工会議員の話では、シーファークの町が発展し、市場が大きな商店街になるほど賑わってくると、観光客はシーファークに集まり、その分近くの島で漁業を営んでいた島民の稼ぎが極端に減ったと聞いている。


 勿論、シーファークの卸売業組合で買い上げて売ってもいるのだがごく一部で、直接海上や浜辺で小舟で小売をしていた島民は、商工会組合に加入するのを拒んだとも聞いていた。


 稼ぎが減り、家族を食べさせられずに、海賊や観光客を狙った追い剥ぎに身をやつす者もいると言うが、その口だろう。


「お貴族さまの娘っ子を置いて行くなラ、お前はそのまま帰してヤル」


 そう言われて、システィアーナを置いて行くなど、あるはずも無い。


 取り押さえた男の古びた剣も、斬り捨てられた男の剣も、拾ってみたが重心や軸がズレていて、扱いにくそうだった。

 護衛騎士の一人が、腰に差した予備二本目の短剣をエルネストに手渡した。


 


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