第30話 王太子、周章狼狽す
──花の精とはこういう姿をしているのではないか?
目に入った瞬間、アレクサンドルはそう思った。
子供の頃から綺麗な少女で、婚約者であるオルギュストが嫌味でよく使っていた言葉、魔女の作った精巧な人形のように冷たいほどに綺麗な小娘(少女)と言うのが、いい意味でぴったりだと思っていた。
淑女教育が行き届いていて、人前で
その彼女が、自分の贈った王家の薔薇を胸元と腰、結い上げた髪に挿して飾り立てているのは、胸の奥がザワついた。
これを、この落ち着かないざわめきを、なんと呼ぶのかアレクサンドルには解らなかったが、目の前のシスティアーナが、己の行為を幼稚だと恥じ、人に見られたことを恥ずかしがっているのは解った。
ので、彼女の肩に所在なげにかかっているショールを手に取り、細く折り返されているのを広げて、頭からかぶせ直した。
「⋯⋯⁉」
その行為は、システィアーナは元よりユーフェミアも、フレックやアナファリテも、理解出来なかった。
──今、王太子はナニヲシタ?
元は幅広のシフォン生地のショールを細く折りかえして
まるで、システィアーナを人目から隠すように。
いや、まるで、ではなく、実際、アレクサンドルにとってはそのつもりである。
そのまま、思ったより華奢に感じる肩を引き寄せ、廊下を歩き出す。
これからどんどん寒くなる季節柄、毛足の長い絨毯をさくさくと踏みしめて。
王族が日常の業務を行うエリアに入ると人目はかなり減ったが、花で飾った姿が恥ずかしいのと同じくらい、透け感のある薄手のショールを頭から被っているのも、何よりアレクサンドルに肩を抱き寄せられるように寄り添われて歩いているのも、システィアーナの平常心を乱し、困惑と羞恥と、今日はもうこのまま帰りたいという気持ちに拍車をかけていた。
──帰りたい
王族の学友として王宮に上がるようになっても、祖父の名代として王女達の公務に付き添うようになっても、逃げ出したいと思った事はなかったのに、今は、この場を逃げ出すことばかり考えている。
アレクサンドルは、ユーフェミアの勉強部屋の扉を開き、まるでまわりから隠すようにシスティアーナを中へ押し込む。
慌てて、ユーフェミア付きのメイドが続き部屋から出て来て、明かりをつけ、カーテンを引き窓を開けて空気を入れ換える。
表の廊下に面する扉は、メイドや雑用係の使用人達は利用できないのだ。
「お兄さま、まるで人目を忍んで女人を小部屋へ連れ込む、下劣な男性のようですわ」
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