第28話 白薔薇を贈る兄と紅薔薇を贈るカルル
王宮の貴族用の馬車停めに到着すると、馬車の後ろのステップに立ち乗りしていた護衛官が扉を開き、まずはユーフェミアに手を差し出し、続いてシスティアーナに⋯⋯
しかし、護衛官は下げられ、システィアーナの手を取ったのは、フレックだった。
傍にアナファリテ妃も控えていた。
「おはようございます、フレキシヴァルト殿下、アナファリテ
「お兄さま、どうしてこちらに?」
「お前が朝早くから出掛けたと聞いたのでね。戻ったとの報せを待っていたのだよ。シスに会いに行っていたのかい」
アレクサンドルやユーフェミアのような綺麗な顔立ちよりも親しみやすく、精悍な男性らしさを併せもった端整なフレックの笑顔は、見る者みなを温かくほっとさせる。
「ええ。シスが体調を崩すなんて珍しいと思ったから、様子を⋯⋯」
「で? やはり、そうだったのかい?」
「ええ。シスを見てもわかるでしょ? 邸中、王家の薔薇とラナンキュラス、かすみ草が咲き誇ってたわ」
「なるほど。シスは花が似合うね」
「まっ」
「ああ、いや、勿論、アナが一番、花が似合うよ。ただ、この白薔薇が、淡い色のドレスともしっくりくるし、何より王家の薔薇だからね。シスは先々代の王家の血筋なんだな、とストンと落ちたというか」
妻の目の前で他の女性を褒めてしまい、タジタジになる姿も、まわりを微笑ましい気分にさせている。
とにかく、国王と最も似て切れ者と言われるアレクサンドルと対照的に、親しみやすく王家の窓口のような役割をも担うフレックも、愛妻には弱いらしい。
「でも、同じくらい、匂いの強い、剣弁高芯咲きの花びらの尖った紅色の薔薇や、ガーベラ、チューリップなんかもたくさん飾られてたわ」
「兄上は、チューリップなんて可愛らしいものを選ぶ方とは思わなかったな。早咲きのものが?」
「違うわよ。カルルデュワよ」
「カルルが? シスに花を?」
やめて欲しいとシスティアーナは言いたかったが、興奮しているのか、ユーフェミアの口は止まらない。
「シスが具合が悪くした時、お部屋にいらしたから気になられたのかしら、お見舞いなんでしょうけど。
お兄さまの贈られた量もどうかと思うのに、カルルデュワまで同じくらい贈ってるなんて! お見舞いなのに、香りの強い色味も濃い薔薇は合わないわ。他意があると思っちゃうでしょう?」
「それは⋯⋯」
明言は避けたものの、フレックも、単なる見舞いではないと言うユーフェミアの言葉に、概ね同意した。
「でも、シスがドレスに花を飾るなんて思わなかったけど、可愛いね。似合ってるよ」
きっと兄上も喜ばれるだろう。とは続けなかった。「せっかく可愛くしてるのに、外そうとするのよ」と言うユーフェミアの言葉と、妻の前で同じ女性を褒めてしまったからだ。
カルルの贈った、貴族女性に好まれる香りの高い剣弁高芯咲きの、花の女王と呼ばれるに相応しい薔薇ではなく、アレクサンドルの贈った、白やクリーム色、薄桃色の淡い色が多く、まろく多弁でカップ咲きの王家保存種の薔薇の、優しさを兼ね備えた優雅な姿が、システィアーナの心に癒しを与えたのは確かだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます