第5話 王太子の気のおけない親友



 半日ほど時間軸戻ります



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 日の出とともに起きて、領内での今日の業務を執事と打ち合わせた後、ユーヴェルフィオは軽く食事を済ませ、エルネストを伴って登城した。



 ユーヴェルフィオは幼少から王太子の学友として、長い時を共にしていたので、王族のプライベート区画まで入る事を許された数少ない人物でもある。王宮での地位はあまり高くないが、元々は王太子の側近と目されていた。


 それはエルネストも同様で、第二王子のひとつ年下の学友として王宮奥殿に出入りが許されている。


 ちなみに今は母側妃とともに隣国へ行っている第三王子デュバルディオと同い年でもある。



「おや、珍しい人がお見えだ」



 急な訪問にも嫌な顔一つ見せず、にこやかにユーヴェルフィオを迎え入れる王太子アレクサンドル。



「今日はなんの話なのかな? 君がここへ来るなんて、明日は季節前倒しで雪が降るんじゃないのかい。やっと僕の側近になる覚悟が出来たのかな? それとも⋯⋯ ああ、もしかして、やっと細君を持たれる覚悟が?」

「その言葉、そっくりアレクに返すよ。王太子でもう二十歳だと言うのに、独り身なんてありえないだろう? 二つ下のフレックが妃を娶ったというのに」


「世に美姫が多くてね、決めかねて困っているんだよ」

「よく言うよ。想う相手に告白できないだけだろ? 王太子様がフラれちゃ格好がつかないからな」

「そう言うな。お前こそ、仕事が恋人とか言ってないで、子供をもうけて、公爵を安心させてやれ。そして遠慮なく僕の駒になれよ」



 にこやかに笑みを返し合う同い年の友人ぶりに、エルネストは背に冷たいものが流れる気がした。


 王太子に対して、一貴族の子息でしかないユーヴェルフィオが、笑顔で嫌味のキャッチボールである。


 公爵家の跡取りとして、子爵位は持っているが殆どただの称号でしかなく、実権などないに等しい。



 気がおけない仲で、王太子の側近に望まれていたとは聞いていたけど、本当なんだな⋯⋯



 そうでなければ、あんなに明け透けにポンポン言葉の応酬など出来ないだろう。エルネストもフレキシヴァルトの側近にと打診は受けているが、決めかねている。成人後の兵役が終わってないからと言い訳をして逃げている状況だ。




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