第4話 まだ、あなたの婚約者はわたくしです



 高位貴族(公・侯・伯)のみ参加できる夜会に、子爵令嬢を伴って参加したオルギュスト。


 しかも、令嬢の父親の子爵位は、上位貴族の跡取り達が爵位を継ぐ前の称号として使う子爵位ではなく、官僚爵位で世襲性もなく、いわば名誉称号でしかない。厳密には貴族ではないのだ。


 貴族としては男爵家よりも扱いは低く、士爵(騎士)や准男爵と変わらない。ただ、高級官僚として位置は高く、多くの場において裁量権がある故の、平民への線引きの為の爵位なのだ。


 次男で跡取りではないとはいえ、公爵家の嫡子が、妻に望むような家柄にはない。この夜会にも、仕事を認められ子爵位を与えられた父親はともかく、この令嬢には本来、参加権はない。


 そんなパートナーを伴って、参加する勇気は感心するが、それで白い目で見られる女性の立場は考えなかったのか。



 ──ここまで厚顔無恥で無神経だとは思わなかったわ



 オルギュストの顔を見上げていると首が怠くなるので、肩の力を抜き、扇で口元を隠してため息をつく。



「子爵ではあるが、父親は陛下の覚えもよい官僚であるし、このマルティーネもよい娘なのだ」


「でしたら、この場には、お連れするべきではありませんでしたわね」


「なんだと?」


「此度の夜会は、上位貴族のみ招待状を持って参加出来るもの。子爵令嬢を連れて来れば、配慮できない者として貴方の品格が疑われるし、弁えない小娘として、マルティーネ嬢が白い目で見られることになります」


「マルティーネを侮辱するのか?」


「わたくしではなく、貴方の行動が、彼女を貶めるのですわ。よくお考えあそばせ?」


「彼女は、私の妻となるのだ。パートナーとして参加して何が悪い?」


 扇では隠しきれないため息が出る。


 システィアーナは、目と眉に強い意志を込め、オルギュストの顔を見上げた。



「現時点では、まだ、貴方の婚約者はわたくしです」




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