第2話 薄紅の姫君

 婚約者であるはずの男性に声をかけられたので、手に取っていた白ぶどうの房を手元の取り皿に戻し、一応は婚約者であったはずの男に向き直るシスティアーナ。



 婚約者の隣に立つ子爵令嬢のシャンパンゴールドに似ているが、僅かに紅みが差したピンクゴールドの髪を複雑に結い上げ、ピンクサファイア、スピネル、オパール、ジルコン、トルマリンなどの、ガーネットを差し色に薄紅色の宝石を繋げた髪飾りを所々ポイントに刺し、産出量が極端に少なく希少な、やや橙味を出した濃いピンクのパパラチアサファイアをピアスに飾り付けたシスティアーナは、上位貴族たちの間で、薄紅の姫と呼ばれていた。


 年の頃は16歳。相手次第では結婚してもいい歳だ。


 自分との婚約を破棄すると息巻いている婚約者を、見上げた。


 理由についてはまだ聞かされていないが、双方話し合いの上での婚約解消ではなく、拒否は受け付けない、一方的な破棄だというのだ。


 ──私と婚姻したくないというのなら、言ってくれれば、いつでも解消に応じましたのに


 なぜ態々わざわざ話し合いもせずに一方的に破棄し波風を立てようとするのか。


 元々王命で取り纏められた婚約であって、こちらにしても望んだものではない。



 婚約者──シャンパンゴールドの髪が美しい子爵令嬢を伴った、金茶の髪と榛色の瞳が意志の強さを見せる美丈夫──オルギュストは、成人直後の兵役で南の辺境伯領での国境警備隊にいた事もある、剣と乗馬が得意な青年で、体格はいい。


 ガッシリしてはいないが、きっちり筋肉はついていて、背も高い。


 いつもシスティアーナが見上げて話すうちに、だんだん首がだるくなるくらいだ。190㎝以上ある。



「これまで婚約者として至らず申し訳ありませんでした。良きご縁に会われたようで、安心いたしました。申し訳ありませんが、婚姻契約を解消するに当たっての必要書類や手続きは、公爵家でお進めくださいますか? 我が・・侯爵家・・・からの・・・解消手続きは・・・・・・無理・・ですので」



 王命での婚姻契約の場合は勿論、基本、下位貴族家からの婚約解消の申し立てをする事は出来ない。


 例えおこなったとしても、上位である相手側に拒否されればそこまで。


 了承を得られても機関に受理されなかったり、貴族の婚姻には王の承認が必要な為、同様に解消にも王の赦しが必要であり、解消を申し立てる事は王の顔を潰すことにもなる。




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