一人バンド

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一人バンド

 俺には友達がいなかった。

 正確にはいないわけではない。学校の友達ならいるけど、本心から話せる友達がいなかった。日常のちょっとした軽口は話せても、悩みややりたいことや夢などの話を出来る人はいなかった。

 真面目な話をするのは、どこか寒い。夢なんて叶わないことを既にどこか悟ってて、熱くなるのは子どもの証拠。レールの上を行くことが当然だと思っている。そんな雰囲気があった。

 俺が心を開いていないだけという説も、無いわけでは無いんだけど。

 単純に田舎に住んでいるから、絶対数が少ないということもある。無人駅で観光する場所も無く、唯一有名なのは山からの湧水という場所に住んでいるのはおじいちゃんおばあちゃんばかりで、子どもが圧倒的に少ないのだ。

 高校生になってから、山の下の学校に行き始めたから多少は同年代の友達も増えたけど、まぁ……あまり状況は変わってない。やっぱり友達がいないのは、自分のせいなのかもしれなかった。

 俺ははっきり言って割と万能である。

 いわゆる、なんでもそつなくこなすタイプ。器用だから大体のことはある程度するとコツを掴めて出来てしまう。

 だから、一人でバンドを組んでみた。

 音楽が好きでいつも月額四八〇円のサブスクで聞いている。好きな音楽を好きなだけ聞いていると、一つ俺にやりたいことが浮かび上がってきた。

 俺も、好きな音楽で誰かの胸を熱くしたい。周囲に音楽をやりたい人はいない。ならば一人でやるしかない。

 そんなわけで初めて手に取ったのは、昔々に父親が趣味でしていたというギターだった。納屋からひっそりと自分の部屋へ持ち込んで、埃を払えばそのギターはあまり古さを感じさせなかった。少ない小遣いでなんとか弦を張り替えて、古本屋で買ったギター教本を足で押さえながら調律をする。分からないところはネットで調べて動画を見る。

 そうして練習をすれば、三ヶ月も経てばなんとかコードを覚え教本の曲くらいならば弾けるようになる。

次はキーボード。それは姉がピアノを習っていたときに買ったのがあったから、部屋に忍び込んでたまに借りた。そうしてまた三ヶ月が過ぎていく。

 それ以外の楽器はリコーダーくらいしか無かったから、公民館の一番小さい音楽室を借りた。あそこにならば、ドラムがある。ベースはもう買うしかないかなと思ってる。今まで貰ったお年玉のことを思い出しながら、楽器屋でガラスの向こうのベースを眺めていた。ベースのあの低音は格好いい。格好いいから、ベースは自分専用の楽器で欲しい。

 音楽に関しては、楽器を四つするための労力は四ではなくて、根底の部分が重なるから少し減って実質三くらいになる。

 俺は作曲もしていた。作詞もしていた。

 授業中はそのことばかり考えて、授業のノートの下にはいつも曲を作るためのノートを置いていた。

 どれか一つを極めるには、飽き性の自分には向いてなくて、ある程度できてものめりこめないから余計に向いてない。

 ただ、一人で全てをこなすというのは、大変な労力が必要で、それが自分にはやりがいがあって楽しかった。

 自分の作った曲を、自分の弾く楽器で弾く。一つ一つ順番に動画を取って、家に帰ってミックスしていく。

 パソコン上で楽器は全て弾けるから、本当は自分で全部弾かなくていいのだけれど、最初に視界の端にギターがあったからもう弾くしかなかったのだ。

 歌詞には、友達に話せない思いの丈を乗せた。やりたいこと、出来ないこと、夢や進路、恋愛についてなど。誰かと何かをするということにおいては、俺が万能であっても出来ないことであったから。俺の本音を聞いた誰かから、何か返事が来たらいいなって思っている。それと出来たらちょっと、褒めてくれ。

 一人のいいところは、方向性の違いによる解散が無いことだ。

 そんなわけで、初めてのソロバンドで出来上がった動画を、ドキドキしながら上げるのだ。

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一人バンド 2121 @kanata2121

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