第19話 会長選び

 ◇中二、秋◇


 僕と筆子が中学二年生のとき、漫研の会員は五人だった。山本会長が卒業し、一年生がひとり入会してきた。

 双葉洋平くんという男の子だ。

 筆子ほど上手ではないが、真面目に漫画を描く男の子だ。迷彩魔法の持ち主。カメレオンのように肌の色を変え、周囲の色に溶け込んで、姿を消すことができる。一種の透明人間だ。後藤先輩の透視と並んで、これもすごい魔法だと思う。

 けれど彼は「弱点の多い魔法なんです」と言っていた。服の色は変えられないから、裸にならないと有効に魔法が使えない。自分の影の色を変えることはできないので、注意深い人には見破られてしまう。何もしていなくても、女子にのぞき魔ではないかと警戒される。

「うらやましがる人もいるけれど、使い勝手の悪い魔法ですよ」

 後藤会長がうんうんとうなずいていた。山本前会長を引き継いで、今年の会長は後藤先輩が務めている。

「他人に警戒されちゃう魔法って嫌よね。使ってもいないのにさ~っ」と彼女は言った。

 双葉くんを加えて五人で会誌を作り、文化祭で発行した。筆子は剣道少女の続編を描き、僕は密林をテーマにしたイラストを載せた。

 文化祭が終わったら三年生は引退し、会長が交代する。

 僕か筆子が会長にならなければならない。

 会長選びでひと揉めした。

 僕は筆子が会長になるべきだと思った。僕は漫画を描かない。漫画研究会の会長は漫画を描く人がなるべきだ。誰よりも熱心に漫画を描いている筆子が漫研の会長にふさわしい。

 だが、筆子は絶対に「うん」とは言わなかった。

「か、会長なんて、なれない……」

「どうして? 筆子がいいと思う。ここは漫研なんだよ。やっぱり漫画描く人が会長にならないと」

「山本先輩は描かなかった……」

「そうだけど、あの代は山本先輩しか三年生がいなかったから仕方がない」

「会長は春日井くんがやって……」

「僕はイラストしか描かないから、漫研の会長としてはどうかと思う」

「わ、わたしには、絶対無理……」

 要するに、筆子は性格的な問題を理由に会長就任を固辞しているのだ。確かに、彼女はリーダーシップを取るような性格ではない。僕だってリーダーなんて柄ではないけれど。

「僕がサポートするよ。やってみたら?」

「だ、だめ。会長にならなきゃいけないなら、退会する……っ」

 よっぽど嫌なんだな。

 会長は僕が引き受けることにした。筆子は漫研に残り、相変わらず無駄口を叩かずに漫画を描き続けた。

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