第3話 首都・グリモネ

「ほら、起きなさい、何時間寝てるのよ」


 乗り物にの揺れる感覚を感じながらリッターは誰かに起こされた。


「レンか? でもこんなに声高かったっけ? ……って、えぇぇぇぇぇ??!!」


 リッターの目の前にいたのは、昨日戦ったはずのミューラだった。


 乗り物の揺れは、馬車の荷台にいるからだろう。


「なんでお前がここにいるんだよ! てか、レンはどこにいる!」


「あの坊やね。すぐそこにいるじゃない。それに、昨日負けたからよ。騎士狩りなんだし当然の事でしょう」


 ミューラの言う通り、レンはリッターのすぐそこに仰向けで寝ていた。


 その時リッターは思った。「ミューラって確か、つえー所の団長だろ。てことは、それに勝った俺は今風魔騎士団団長で何人もいる騎士をまとめ上げる人ってことか!」と。


「ミューラ、だよな。その、風魔騎士団はどうなるんだ」


「風魔騎士団はもうない。今は別の騎士団に変わったはずだ」


 ミューラの表情が硬くなる。


「てことは、どういうことなんだ」


「お前には関係のないことだ。深堀はしないでくれ」


 ミューラの顔が何か隠し事をしているような雰囲気にも感じた。今は触れない方がよさそうだ。


「それよりもこの馬車、どこに向かってるんだ?」


「この馬車は今王都を目指している。この国のね」


「へぇ。でさ、この馬車どうしたんだ? 昨日いなかっただろ」


「あぁ、この馬はな、今日の今朝に捕まえたものだ」


 この女は一体何を言っているのだろうとリッターは思った。


「そんな、野生の馬を運よく見つけたからって、そう簡単にいう事を……」


 馬に変わったところがないとおもっていたが、馬の頭上をよーく見ると、そこには大きな1つのたんこぶがぷっくらと膨らんでいた。


(ミューラを敵に回したらやばい)


「どうしたリッター、なんだか顔色が悪いぞ」


「そ、そんなことはないぞ。それより、レンは相変わらずだなぁ」


 何にも悪さはしてないが上手く誤魔化すことが出来た、とリッターは思った。そして、レンはなかなか起きる気配がしない。太陽はほぼ真上にあるというのに。


「……ん?」


「あぁレン、やっと起きたか」


「リッター、それと……。てめえ、ミューラ!! ここで何してんだよ」


 レンはすぐに立ち上がると、剣をミューラに突き付けた。


「何の真似だ。外道なことしかしないとはこういう事か。大人しく観念す……」


 ミューラから繰り出される拳の『ごーーん』と重い音が響き渡ると、レンはその場に倒れてしまった。


「外道なことはもうしないわよ、起きて早々うるさいやつわね」


 こ、こ、殺される!! リッターは恐怖のあまりに驚愕してしまう。


「何よリッター、そんな顔して」


「俺は食ってもおいしくありませーん!!!」


「誰もあんたなんか食わないわよ」


 そうこうしているうちに、リッターたちを乗せた馬車は王都の見える高地に到着した。


「見えたわよ、あれが、王都・グリモネよ」


「おおおおお!!!」


「俺はまだ認めんぞ……」


 盛り上がっているリッターとは対照的に、ぶたれたばっかのレンはまだ何か諦めていない様子だった。


「まーだ言ってるよ。ミューラは俺らの仲間だ。文句でもあんのかー」


「そうだぞレン。私はリッターに負けたんだ。配下につくのは当たり前だろ」


 レンは血相けっそうを変えると、ミューラに向かって指をさす。


「こんなゴリラ女、飼育できるかって話だ! 俺らを王都に連行して何かする気だっっ! っておえっ!!」


「誰がゴリラ女じゃコラぁ!」


ミューラはレンの腹に一発パンチを決めた。


(ひ、ひねりつぶされる……!!!!!!)

 そう思ったリッターであった。


「確かにミューラ、王都に行って何するんだ」


「そういえば言ってなかったな。今更だが言おうじゃないか」


 なんだなんだとレンも起き上がり、二人はミューラからの発表に期待する。


「騎士団の結成だ!!!!」


「おおおおおおお!!!!」


 リッターとレンはこれまで個人的な活動しかしてこなかったため、騎士団として団を結成するのは初めてなのだ。


「で、騎士団ってどうやればなれるんだ?」


「すごく簡単よ」




【首都・グリモネ】




 リッター一行を乗せた馬車は、首都・グリモネの繁華街を通りかかっていた。


「ここがグリモネかぁ! すげー賑わってるんだなぁ」


 リッターは初めての物を見る目で街を見渡す。


「グリモネはこの国で最も発展している場所だからな、当然だ。ところでリッター達の生まれはどこなんだ?」


「俺ら二人はメナード村出身だ」


「メナードって、この国の端っこにある?」


 メナード村は、この国とその東にある国に挟まれた場所にあり、とも呼ばれている。


「そう、なのか? 俺、地図みたいなの見たことないからわかんねーわ」


「俺なら知っているぞ。昔見た書物に場所を記していたページがあってな」


 書物というワードに興味を示したのか、ミューラは目を輝かせる。


「ねぇレン。その書物にはどんなことが書かれていたの?」


「半分以上読めない字で埋め尽くされていたはずだ。それ以外の読めるページには、地図付きでその場所の説明文があったな」


「半分以上読めない字ねぇ。面白そう」


 ミューラはにんまりと嬉しそうな顔をほころばせる。


 すると急に馬車はとある建物の手前で止まる。その建物には『ギルド本部』と書かれた看板が掛けられていた。


「なんだここー」


「ここはギルド本部、騎士団を結成するためには必要な場所よ」











 ⁑ パラディン図鑑 ⁑








 ・首都 グリモネ…ヴァルキリー王国の中心となる首都であり王都でもある。遥か昔にいたとされる旋風の騎士・ヴァルキリーが創り上げたものであり、他国と比べ長い歴史を持つ。今にも使われる風の力を初めて使った者は、ヴァルキリーとされている。























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