最弱騎士の覚醒成長譚
Leiren Storathijs
プロローグ -最弱の騎士-
とある世界にある最大の王国『セレクリッド』の王国騎士に所属する一人の兵士。
『アルス』という青年がいた。
アルスの騎士階級は二等兵で、最も下っ端の役割をしていたが、さらにその中でも最弱の騎士という称号を冠していた。
アルスは人一倍正義感が強いが、それでも実力は最も低く、毎日の様に素振りで訓練するもいざ模擬戦となれば連敗続き。
だが決してあきらめない強い心を持ち、幾ら他の兵士に馬鹿にされても、全く昇格する気配が無くとも、アルスは諦める事は無かった。
「せいっ! やぁ! せいっ!」
「おいおい。あいつ、いつまで此処の軍の中にいるんだ? そろそろ目障りじゃね?」
いつまでも変わり映えの無い毎日と、毎日成長の見込みもない兵士の素振りを見せられる他の兵士達。
誰よりも大きな声で、誰よりも長く、誰よりも真剣に訓練に努めていても、それが目障りだと感じる兵士も沢山いた。
どんなにアルスの邪魔をしても、アルスを除け者にしても、それを見て見ぬふりする者は多くいたが、どれだけ虐められてもアルスは脱隊することは決してなく。それにより、他の者の苛立ちをどんどんと募らせていた。
「おいアルス。休み時間も空き時間も、いつまでもいつまでも、デケエ声で素振りしてんじゃねえよ。てかいつになったら消えてくれんの?」
「僕は絶対に諦めない! 君たちがいくら僕を邪魔しようとも僕は、この国の騎士として、国に守り、民の希望になるんだ!」
「はぁ〜うぜぇ、うぜぇ! てめぇの正義はよぉ、良いことかもしれねぇが、俺らの邪魔なんだよッ!!」
朝も昼も夕方もずっと訓練に努めるアルスに苛立ちが限界に達した男が三人アルスの元に集まる。
現にアルスの正義感は上の者には評価はされていたが、それ以前に他の兵士の生活を妨げている。休憩時間では、終わりまで常にアルスの素振りと大声を聞かされ、就寝時間ギリギリと起床時間より十分前から、アルスの大声を聞かされる始末。
他の兵士達の言い分も決して悪くはない。
こうしてストレスの捌け口になるのも当然という事だ。
男の一人は訓練用の木剣を持つと、思いっきりアルスの腰に向けてフルスイングする。
「いい加減止めろ! やるなら他の隊に行け! ま、他の隊でも同じだろうがなぁ!」
「ぐぁっ!? はぁ、はぁ……っ! 君たちは恥ずかしく無いのか!? 一人の騎士として、民を守ろうとする心を持たずに、同士を傷つけるなんて」
どうもお互いの意思が噛み合わない。他の兵士はアルスを邪魔者として扱っているのに、アルス自身はどうにか説得できないか試みる。
だがそんなアルスの説得は相手には逆効果になるとも知らずに。
「同士ィ? おいおいマジで言ってのかよ。民一人も守れてねえのは、てめぇの方だろうがよ! 俺らを同士として認めて欲しいんなら……ルールは守って欲しいなぁ!? 駄目だ、話にならねえ」
アルスの説く正義は、王国騎士団としては申し分無いのだが……男が言っている事は事実であり、実際アルスは、民を助けるべき場面に何度か遭遇しているが、それで民を助けたという実績が一つもない。
逆に騎士の評判が下がるばかり。そのいつまでも挽回できない報告に、男はアルスに同士と言われ、更に激高する。
遂にはアルスを押し倒し、三人で
「かはっ! ガハッ! 僕は……僕は……!」
「二度と訓練できないようにすればいいんだ! そうすれば俺らの邪魔をされる心配がなくなる……!」
──────────────────
そうして二時間後、アルスは目覚めると医務室のベットの上にいた。
アルスは急いで起きあがろうとするが、その時全身の筋肉と骨全てに激痛が走る。またピクリとも身体は動かなかった。
「な、なんだこの痛みは……!?」
気付いてアルスは全身を見回せば、視界は片目しか見えず、利き腕と両足の骨を折られ、肋骨も数本折られ、そして最後には背骨までしっかりと折られていた。
アルスが気絶する前に殴った男が言った『二度と訓練が出来ないように』は本当に実行されたようで、アルス自身もこれではまともな訓練が出来ないと、打ちひしがれる。
ただここまでの出血と骨折は、普通なら寝たきりになるレベルだが、たとえ訓練が出来なくなっても、やろうとする意思が残っている事にアルスはこれを救いだと感じる。
しかし、最早どう足掻いてもベットから体を起こす事が出来ない状況になんとか出来ないかと思考を巡らせる。
「どうにか……いや、この状態で訓練する方法は……そうだ、イメージトレーニングだ! いつか身体が動かせるようになった時の為に、頭の中で訓練すれば良い……むむむむ」
そこで思いついたのは、イメージトレーニングだった。恐らくもう動かないであろう体にもアルスは希望を持ち、頭の中で自分が素振りしている様子を思い浮かべる。
だが、身体が動かない以上、それには想像力が必要な為、アルスは常に自分の身体を鍛えようとしていた為、そこまでの想像力が元から無く、せっかく思いついた訓練方法に苦戦する。
そうして暫くアルスはイメージトレーニングに努めていると、突然視界上、空中に文字が表示される。最初は激しい痛みから伴う幻覚だとアルスは思っていたが、徐々にピントがはっきりしていく、いつまでも消えない文字に疑問を持つ。
「ん……?」
文字はこう表示されていた。
──────────────────
-ステータス-
名前:アルス
Lv:1
体力:2
筋力:3
魔力:0
敏捷:1
スキル:
《諦めない心》Lv1
──────────────────
「なんだ……これ?」
上部には『ステータス』と書かれ、アルスの現在の能力値が表示された。アルスはこれを見てなにも分からず、頭を傾げるばかりだったが、スキルの欄に書いてある《諦めない心》という字列に少しだけ誇らしく思う。
自分の決して諦めない意思が、視界上に見える謎の文面にも書いてある事に、どうも他人に認められているような気がして心が高ぶる。
アルスは表示される文面の意味は分からないが、スキルににやけながらまじまじとその文字を見つめていると、文字に変化が表れた。
《諦めない心》Lv1
騎士道精神を重んじる一人の王国騎士が持つスキル。如何なる苦難や絶望に対しても必ず復帰しようとする意思は、スキル所有者の精神や肉体を徐々に回復させる。
[効果]
精神異常耐性:大
体力自動回復:小
肉体的損傷の回復:大
「……!?」
相変わらず『スキル』の言葉の意味が分からないアルスだが、スキル詳細にある『肉体的損傷の回復』だけ理解が出来た。
アルスの考えている事が正しければ、今の大怪我を回復をしてくれるのだろうかと考えるが、そんな想像をする前に、スキルの効果が発動する。
「ゔっ……!? ぐ……あ"っ……身体が……戻って……?」
突然全身を襲う激痛。何も身体を動かそうとしていないのに、裂けた肉と折れた骨が確かに繋がっていく感覚と、片目しか見えなかった視界が回復し、両目ではっきり物を見れるようになり、朦朧としていた意識がだんだんとはっきりしていく感覚にアルスは戸惑いが隠せなかった。
そして徐々に回復する身体は、たったの数分で全快してしまった。大切な背骨まで折れた状況だったと言うのに、普通なら決して治る事のない怪我だったのに、何事も無かったかのように完全復活した身体。
「そんな……どう言う事なんだ?」
アルスはベットから半身を起こし、他にどこも痛みが感じない事に、今映っていた文面が本当に実行された事に恐怖を覚える。
自分の体になにが起きたのか? 人間では無くなってしまったのだろうか? と。
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