第31話
勇者を食い終えた俺は大聖堂の屋根上へと登った。
「おお、おお、派手にやってんなぁ」
轟く爆音。
上がる煙。
響き渡る悲鳴。
つい先ほどまあったで白く美しい街並みは嘘のような光景。
『クハハハハハハハハハッ!!』
炎と煙にまみれたアイテリオール教国首都の中で笑い声をあげている人型のハエの化け物。
本物のハエとは違いスラっとした身体に背から生えている
葉脈のように翅の膜支えている
昆虫特有の六本脚のうち、後ろ二脚で空間を捉えて人のように立ち、残り四脚――否、四本の腕にはそれぞれ人のような手が備わっており、上に向けている手のひらにはそれぞれ火の玉が浮かべられていた。
いつも着ている燕尾服はなく、その醜くもどこか美しさを感じる姿は悪魔と言う言葉が相応しい。
そんなハエの化け物――ベルゼの方に飛んでいく。
「おい、こんな盛大にやっていいのか? また神に目をつけられるぞ」
『あ? ああ、リンドウか。別に構いやしねぇ。領域を出た時点でオレのことはバレてんだ』
「……マジか」
『それにこれは奴への宣戦布告なんだよ』
そう言ってベルゼは中指を立てて天に向けた。
『待ってろよ? クソッタレの支配者。ぜってぇ殺してやる』
***
その日、アイテリオール教国は聖域結界と言う守護の力を失った。
結界がなくなったアイテリオール教国へ、領土周辺にいた魔物たちが一斉に入り込んでいった。
魔物が一切存在せず、豊かな自然とそこに暮らしていた動物たちは魔物に蹂躙されていく。
アイテリオールの騎士や、その場に居合わせた冒険者たちが応戦し街は守られた。だが、防壁が築かれていない小さな村や集落は魔物に食い荒らされてしまう。
アイテリオール教国教皇――フィーリル・アルン・アイテリオールは行方不明。
後日、行方不明のフィーリルの代わりに、彼女の血縁者が教皇となり国の破滅は免れた。
だが、代々継いで来た聖域結界の魔法陣は床ごと消えていて修復不可能。
世界で一番安全で平和と言われた国は崩れ去ってしまった。
他国の援助により、首都の復旧が開始されるも元に戻るまではかなりの時間がかかると予想される。
***
アイテリオール教国で御門将人、結城恭吾、篠沢悠理、木口朱里の勇者四人を食った俺は今ジャーニアス帝国領へと来ていた。
彼ら四人を食ったことにより、残りの勇者は十四人。
そのうちの四人がこのジャーニアス帝国にいると言う情報を得た。
ジャーニアス帝国は武器開発が盛んな国であり、召喚された勇者のために武器を作っているという噂もあった。
現在はジャーニアス帝国領とウィルフィールド王国領の国境近くにある交易都市のギルドにいる。
理由はいつも通り、食事をしながらの情報収集だ。
ここで聞いた情報によると、勇者たち四人は鉱山を保有している街――ミルと言う街にいると言う。
近場にいた冒険者にチップを渡してミルの話を聞いたところ、ミルはミスリルの鉱山を保有しており、それもあってか鍛冶が盛んな街とのこと。
噂ではミスリルを使った特殊合金も作られているとかなんとか。
「勇者はミルで武器を作るつもりなんだろうよ」と笑いながら冒険者は言っていた。
まあ、実際神器がない彼らは特殊な武器を必要としているからな。
冒険者の言っていることは間違っていない。
食事を終えて金を支払った後、俺はギルドから出る。
技術に進歩しているジャーニアス帝国の街並みは、他国と違って半世紀から一世紀ほどすすんでいるようだ。
しっかりと加工されたレンガを使った建物、板石を使いしっかりと舗装された道。
馬車も通っているが、よく見るのが蒸気自動車のような形の車。
蒸気機関のように煙を吐き出していないところをみるに、魔法を使った技術なのだろう。
星に優しい技術だな。
よく見ると、車の車輪にはゴムのような物がはめられている。
なんとも面白い国だな。
ちょっとワクワクする。
「この国面白いな! 見たこともねぇもんがいっぱいだぜ」
楽しそうなベルゼが俺の横に現れる。
「オレがまだ外にいた時にはこんなもんなかったんだがなぁ」
クハハ! と笑いながら近くに停まっている車を物珍しそうに眺めている。
「行くぞベルゼ」
「おおん? もう少し見ててもいいじゃねぇかよ」
「もっと面白いもんが見れるぞ」
「……早く行こうぜ!」
俺と車を交互に見た後、彼はそういう。
悪魔なのに新しいもんが好きなのはどこか面白い。
ベルゼと共に街の中を歩いていく。
この国は車以外にももう一つ珍しいものがある。
「おいおいおい……っ! なんだこれ!? なげぇしデケェ! しかもこれ鉄でできてんのか!?」
たどり着いたのは駅。
切符を買ってホームに向かったところでベルゼがはしゃぎだした。
停まっているのはもちろん列車。
観光にくる人も多いのか、列車についての詳細が書かれたパンフレットもあり、それによるとこの列車は魔導列車と言う名前らしく、帝国内の主要都市同士で繋がっているとのこと。
機構のことは書かれていないが、字面からして魔石や魔力を燃料として動かしているのだろう。
すでに空気抵抗に対して工夫もされていて、先頭車両の形は少しとんがり気味。
かといって外観の美しさを損なわないようにデザインされている。
「乗るぞ。ベルゼ」
「ほぉ! これ中に入れるのか!」
ベルゼと共に車両に乗り込む。
切符には列車番号と、部屋の番号が書かれているので、その番号の部屋を探して部屋に入る。
四人席で一部屋となっていて正面から見て左側が通路で右側が全て部屋となっているようだ。
しばらくして、アナウンスが流れて、ブレーキが解かれる音が聞こえたあと、ゆっくりと列車が動き出した。
「ほぉ! すっげぇ! こんなデッカイ鉄の塊が動いてんぞ!」
いつになく楽しそうなベルゼ。
「パンフレットによると、最高速度は時速三百キロらしいな」
「クハハ!」
聞いちゃいねぇな。
少しずつ速度が上がっていく魔導列車。
その速度はある程度の所で一定に保たれる。
景観の流れる速さから俺の飛行速度とあまり変わりはないな。
だが、とても新鮮だ。
まさかファンタジーな世界で列車に乗ることになるとは。
乗り心地もいいし、俺も楽しむとしよう。
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