第18話

 出発してから五日。

 商隊はグランダルとルンドブルムのちょうど中間地点になる街へと来ていた。

 道中、魔物に襲われることはあったが弱い魔物ばかりだったためかなり退屈であった。

 ほとんどクルリアの魔法で片付いてしまうほどだ。

 ここで初めて魔力回復ポーションと言うものを見たが、クルリアの飲んだ後の表情から察するに不味いのだろう。

 ゼクスの魔導銃は未だ使われていないので早く使っているところを見たいところだ。


「積み込みまで手伝わせてすまないな。宿の方は三部屋取っておいてある。今日はそこを使ってくれたまえ。これが場所だ」


 護衛対象のおっさんはそれだけ伝えると、荷馬車を店の敷地に停めるよう指示を出して店へと入って行った。

 どうやらここもおっさんの店らしい。やり手だなぁ。


「リンドウはこれからどうする? 俺たちは宿に行って荷物を置いたら夕飯を食うつもりだが」


 と、ハイル。

 時刻は夕方。確かに夕飯時だな。


「めーし! めーし!」


 五日間人を食ってなかったベルゼはすでに食う気満々だしなぁ。

 それにちょっと探してみたいものもあるし。


「すいません。ちょっと探し物するので先に戻っててください」

「そうか。わかった」


 断りを入れて、彼らが宿の方に向かうのを見送る。


「いなくなっても騒がれない奴にしろよ」

「任せろぉ!」


 うきうきわくわくなベルゼは俺の言葉を聞いた瞬間消え去った。


「さて、俺は道具屋だな」


 俺の用事は道具屋。

 馬車に乗っている時にクルリアが使っていたマジックバッグが気になったからだ。

 俺は今まで山賊から頂いた背嚢を使い続けている。が、容量が心許ない。

 クルリアが使っていたバッグは空間拡張が施されていており、見た目以上に容量がある。

 ここ最近物が増えてきているためそろそろ大型のリュックでも買おうかと思ったが、クルリアのバッグを見てそれを買おうと決めた。

 道具屋を見つけ、中に入りマジックバッグを探す。

 背嚢やポーチは売っているが普通の物だ。

 いくら探しても目当ての物が見つからないので、仕方なく店員に聞くことにした。


「マジックバッグ? ならここじゃなくて魔道具専門店に行くといい」


 魔道具専門店なんてものもあるのか。

 不思議に思っていると、店員のおっちゃんは親切に場所まで教えてくれた。

 礼を言って、教えてもらった店へと向かう。


「……魔道具専門店マドヤ」


 ネームセンス。

 俺はマドヤへと入る。


「おお」


 今まで食ってきたからか、魔力を感じられるようになっていた。

 そんな俺が魔力で稼働させる魔道具を専門に扱う店に入ったらどうだ?

 答え。涎が出る。

 垂れそうになる涎を飲み込み、目当ての物を探すことにした。

 探すとすぐに見つかる。

 需要が高いのか、見つけやすいところにあった。

 容量とバッグの大きさで値段が変わるみたいだ。

 小さく容量の多いと高くなり、大きく容量がそこまで多くないものは安い。

 俺が今使っている背嚢に近い形のもあるな。容量は……百リットル!? スーツケース並みの容量じゃねぇか。

 値段も高く、金貨五十枚だ。全然払える額だな。

 ギルドで稼いだ金と食事の時に貰った金。両方合わせると相当な額になる。

 今回マジックバッグを買おうと思った理由の一つでもある金の量。背嚢の中身はほぼ金貨銀貨銅貨の小袋で埋まりつつあるのだ。

 マジックバッグがあれば金以外にもバッグが使える。

 俺は背嚢型の百リットルバッグと、レッグポーチ型の三十リットルのバッグをカウンターに持っていく。


「……兄ちゃん買えるのかい?」


 訝しげにこちらを見る店員? であろうおばちゃん。


「ほい」


 背嚢から金貨の袋を出してカウンターに置く。

 紐解いて中から百五十枚の金貨取り出して、金貨袋のひもを締めてまた背嚢へと戻した。


「……問題ないね。にしても兄ちゃん金もちだねぇ。そんな身なりだがどっかの坊ちゃんか何かかい?」


 もし坊ちゃんなら文句いっぱいいいそうだな。


「ただの冒険者ですよ。これでもBランクなんで稼ぎはいい方ですね」

「あんらまぁ! Bランクの冒険者様だったのかい! 人は見かけによらないねぇ」

「あはは。いい買い物ができました。では」

「また必要なものがあったらいつでもおいで」

「ありがとうございます」


 礼を言って魔道具屋を後にする。

 その足で宿へと直行した。

 受付カウンターで聞くと一人部屋が残っているとのこと。

 カギを受け取ってその部屋へ行く。

 部屋の中で背嚢をおろして中身をマジックバッグに移し替える。

 レッグポーチの方には地図やその他小物を。

 背嚢型には金銭類を入れた。

 容量は余裕がある。ありすぎる。今度から売れそうな武器類を回収するのもありだな。


「もっとデカいの買えばよかったか」


 大剣とか手に入れたとき入らんしな。いや入るか?

 まあいい。

 さて、ここからどうしよう。

 暴食の効果のせいで腹が減ってしょうがない。

 食事に出かけてもいいが、ベルゼが出てるから食えても残飯くらいだろうな。

 なら近くの森にでも行って魔物でも食いに行くか。

 思い立ったが吉日。移し替えたばかりのマジックバッグを装着し、宿をあとにした。

 この時間に門から出ると何か言われそうなため、外壁を乗り越える。

 森へとでて獲物を探す。気配を探すも弱い魔物くらいしか見つからないが、まあ腹の足しにはなるか。

 気配を辿ってそちらへ向かう。たどり着いたところはあまり大きはない湖。その湖畔には数匹のホーンボアがいた。子連れの用でウリボーが親の周りをクルクルと走り回っている。


「さて」


 五指をホーンボアに向けてトゲを放つ。

 トゲは吸い込まれる世にホーンボアの頭を貫いた。

 倒れたのを確認してそちらへと歩いていく。

 ぴくぴくと動く死体へ手を向けてドラゴンの頭へと変えて食らう。

 一家族を食い終わり一息つく。ふと、視界の端の湖で動く物を見つけ視線をそちらに向ける。


「スライムか」


 そこにいたのはスライム。

 だが、そのスライムはなんか変だった。

 半透明で崩れているような見た目が通常なのだが、このスライムは黒く不透明で丸みがある。プルプルと無害アピールしてくるスライムはぴょんぴょんと跳ねてこちらに来ると、急に膨れ上がり俺に覆いかぶさろうとしてきた。

 無害アピールはどこへ行った。

 腕を剣に変えて切り払う。

 真っ二つになったスライムだが、瞬時にくっつきこちらに倒れてきた。

 後退したところで、後ろから別の魔物が襲い来る。


「おっと」


 来たのはウルフ。どうやらはぐれのようで飢えているようだ。

 見た目は人間の俺を獲物として食おうとしたのだろう。

 ウルフは俺とスライムの間に立つ形となり、スライムには目もくれずこちらを向く。


「お?」


 唸るウルフだが、俺はその後ろのスライムが揺れるのを見た。


「Gaaッ!!」


 涎をたらし、血走った目のウルフが襲い来る。

 それに蹴りをくれてやりスライムの方へと飛ばす。すると、スライムは一瞬でまた膨れ上がりウルフを飲み込んだ。

 最初は藻掻いていたウルフだが、すぐに体を溶かされてしまう。

 吸収し終えたスライムは元の姿に戻るもその大きさはウルフを食う前よりも大きくなっていた。

 食えば食うほどデカくなるのか?


「ふむ」


 試してみよう。

 手首を切って血を流す。

 これで血の臭いに釣られて魔物が来るだろう。俺の血は魔力濃度が高いからな。


「お、来た来た」


 近いところから遠吠えが聞こえると、十匹のウルフが現れた。

 近くにいるスライムには一切見向きもせずに俺を囲む。


「じゃあ死ね」


 無詠唱で地属性の魔法で射殺す。

 アースニードル。と言う魔法らしい。

 殺したウルフを掴んでスライムの方へとぶん投げていく。

 十体食ったスライムは俺が見上げるほどにデカくなった。


「あはは! こいつはおもしれぇや!」


 ちょうど欲しい能力だ。

 この前試しにドラゴンになってみたが、人間サイズにしかなれなかったからな。


「お前はどんな味なんだろうなぁ?」


 手のひらを口に変えてスライムへと近づく。

 のこのことやって来た俺を食らおうとスライムは蠢く。

 そんな奴に手のひらを付けて一気に吸い上げる。

 ずるずるとゼリーを啜るような感じだ。プルプルとした舌触り、魔力の塊かと思うほど濃密な魔力。

 見た目に反してスライムは美味かった。

 すべてを吸い上げたころには最近満たされてなかった腹が十分に満たされた。


「ふぅ」


 一息ついて自分の身体を見る。

 身体の大きさは特に変わってはいなかった。

 魔力と共に別の何かが俺の中に浸透したのを感じたから力は手に入れてるはず。

 自分の意思で増大できたり?

 試してみよう。

 腕をドラゴンの物に変え、以前戦ったドラゴンの大きさをイメージする。


「お」


 ぼこぼこと変化した腕が泡立ち始めるとその大きさを変えた。

 その大きさはイメージした通りの物。

 人間にドラゴンサイズの腕が生えてる感じで、かなり不格好だ。

 握ったり開いたり繰り返し、感触を確かめる。


「あはは!」


 これはいい。

 自分の意思で、食った物の大きさ、量の分だけ大きくなれる。

 ありがたい。

 

 今度は全身をドラゴンへと変貌させる。

 大きさはあのドラゴンと同じサイズ。

 木々を見下ろせるほどの大きさ。地に足をつけた状態でこの視線の高さ、浮遊をつかわずにこの高さにはとても新鮮さを感じる。


「Gruaaaaaaaaaaaaaaッ!!!!」


 またまたお試しに咆哮。

 声帯もドラゴンの物へと変化させているため、迫力のある声が出たと思う。


「クハハ! なんかやってるかと思ったら、予想以上に面白いことになってんじゃねぇか」


 俺の目の前に現れたのはベルゼ。


「体積変動かぁ。グラトニースライムでも食ったか」

「あ、あ。よし。スライムなら食ったが、グラトニーかは知らん。つかグラトニーって」

「声でけぇ! 元に戻れよ」


 ない耳を塞ぐポーズを取りながら笑うベルゼ。

 もうちょっと遊びたかったが仕方がない。

 いつもの状態に戻ると、ベルゼも俺の前へと降り立つ。


「ククク! まさかデカくなるとはなぁ! 面白れぇ面白れぇ!」


 何が面白いのか腹を抱えて笑うベルゼ。


「んで? グラトニースライムって? 名前からするに俺らと同じ暴食なんだろうが」


 そう言われれば確かに暴食。

 投げ渡されたウルフをすべて吸収し、俺のこともただの獲物としか見てなかった。

 その行動は俺たちが食事している時に似ている。


「そうそう。オレらと同じ暴食の力を持つスライム。いわばオレの眷属だな」


 楽しそうに笑いながら言うベルゼ。


「まあ、嘘だが」

「ウソかよ!」

「クハハ!」


 この悪魔、ついにジョークまで言うようになったのかよ。


「眷属ではないが、オレが支配していた地域に長くいた生物は極稀に暴食の力を得るんだ。まあ、そこまで強くないがな。オレから直接力を与えられたお前に比べたらその暴食の力も弱い」

「でも、俺の暴食の力には体積変動? なんて力はないぞ」

「そりゃあ、あれよ。種族別の能力ってやつ? スライムだから食った栄養をそのまま体の大きさへと変えられるんだろうさ」


 ほう。種族別か。


「んじゃ俺は?」

「そうだな。適応ってところだな」

「適応?」

「ああ。食った相手の力や性質を自分へと適応させることが出来る。だから適応」

「ほーん」

「お前、実は興味ねぇだろ?」

「強くなれんなら何でもよくなってきた」

「……クハッ! まあそうだな。オレのためにどんどん強くなってくれ」


 クハハハ! と笑い声を上げて俺の背中をバンバン叩くベルゼ。

 地味にいてぇ。


「……お前は満足したか?」

「おうよ! 腹六分目ってところだなぁ」


 腹をさすりながら言うベルゼ。

 いや六分目って……。

 だいぶ食ったなこいつ。

 俺やベルゼの食う量として、六分目ってなると人間を十人弱食うことになる。

 つまりそんくらい食ってきたってことだな。


「はぁ……」

「んなため息吐くなって! これでも加減して食ってんだからよぉ」

「まあいい。帰るぞ」

「んや、オレはこの森でもうちょい食うわ」

「そうかい」

「おう」


 ベルゼをわかれ、俺は外壁から中へと入り宿へと戻った。

 宿に戻ると、食堂にハイルとゼクスが酒を飲んでいて、無視して部屋に戻ろうとしたろころ捕まってしまい、一緒に飲むことになった。

 めんどくせぇ。

 その後、彼らが酔いつぶれて寝るまで付き合わされた。


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