なんでこうなったんだっけ。

温泉につかりながら見る天使の国は、展望台から見た景色よりは見える範囲が狭い。

展望台で見た景色とは異なり、国全体が一つの花束のようだ。

カラフルなのに、まとまってる。


心地のいい湯加減と心温まるような景色を見て、今日のことを思い出す。


高田さんと待ち合わせをし、断れずに天使の国へ来た。



始まりはいつだっただろう。


高田さんを街で見かけ、男たちに絡まれているのを連れ出したのが始まりだったと記憶している。

話したのもその日が初めてだ。

その時のお礼をしたいからと今日呼び出されたのだ。


そう考えると1週間も経っていない。


助けた日に連絡先を教えたのに、連絡は一度ももらえてないな。

なんで教室で直接声をかけてきたんだろうか。


そもそも、街で絡まれたのを助けた。

それお礼として天使の国に来るというのは見合っているのか。


今は考える必要はないかと思い、湯船に身を任せる。



どれくらい時間がたったのだろう。

少しのぼせてしまったようなので、上がることにする。


お湯から上がると、服の水分が乾いていく。

体の温度は維持したまま、服が乾くようだ。



高田さんと合流すべく、浴室を出る。

ロビーにあるソファーに座って待つ。

体が温まったからか、眠くなってくる。


高田さんはすぐに出てきた。

高田さんも温まり顔が少し緩んでいる。


温まり眠くなったので、そろそろ帰りたいと伝える。


「もう帰っちゃう?」


驚いた顔の高田さんに、元の世界では今何時なのか聞いた。


高田さんは少し困ったような顔で「どういうこと?」という。


いや、こっちがききたい。

どういうことってどういうこと?


高田さん曰く、そもそも、この世界には時間というものは存在しない。

たくさんの写真がパラパラ漫画のように並べられているだけ。


要は写真から違う写真に飛び移っているようなものだから、時間なんて概念はないとのことだった。


時間という概念がどうやら存在しないらしいという話は聞いたことがあった気がする。


「えーっと、それはつまり。元の世界の好きな時間に戻れるという事?」


「そうそう。そういうこと!」

うまく説明できなくてごめんねと眉を下げて謝る高田さん。


なるほど。

謎装置に行き先を入力すれば、来た時間にも戻ることは可能ということなのか。


天使の国、かわいいのにすごい技術力だ。



「じゃあ、始めに来た部屋まで戻ろっか」

高田さんは先ほどのように柔らかな笑顔で微笑みかける。


始めに来た、エントランスのような部屋に戻る。

道中でいろんな話をするが、やはり高田さんにはまる話を見つけることは出来そうにない。


対して盛り上がりもせず気まずくもならない。

それなりに時間を過ごしているのに距離が縮まる気配がない。


こんなに人付き合いは苦手だったかなと思い返し、戻ったら話したことのないクラスメイトにも話しかけてみようと思う。



エントランスに戻ると、高田さんは準備をするからとと言い残し、姿を消した。

僕は部屋の中を歩き回り、触り、元の世界とは違うんだなあとしみじみ感じていた。


高田さんはお待たせしました、と言って戻ってきた。


どうやら高田さんは、もう少しこちらにとどまるようだ。

ドアをくぐるとそのまま世界につながるからねという。


「それとこれ。お土産みたいなもの。」

そういい、キーホルダーのようなものを差し出す。


「絶対に開けないでね」

本当に本当に、絶対だよ!と念を押すその顔は、天使見習いだと打ち明けてくれた時以上に真剣な顔だった。


わかったと返事をし、ポケットへしまう。


高田さんがドアに装置を取り付け、人気のないドアに接続するからねという。

山の中とかはやめてねと返しておく。



準備ができましたと言い、ドアノブに手をかける。

街で絡まれていたとき、助けてくれてありがとうねと笑う高田さん。


「またね」

「うん、先に戻ってるよ」


高田さんが開けたドアをくぐる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る