記憶の選択
なまけ猫
いつも通りの日常
「昨日のテレビみたか??」
教室に入るなり南が目を輝かせて駆け寄ってくる。
高校3年の梅雨が明け、そろそろ受験勉強に力を入れないとなと思っていたら、これである。
昨日のテレビでこの世界がどう成り立っているのかについてやっていたらしい。
なにやら小難しいことをいっていたが、人類は高次元の生き物に作られたかもしれない、そして今俺たちが生きている宇宙の外にも世界が広がっている可能性があるという事らしい。
普段の俺なら興味を持つかもしれないが、徹夜明けの俺は小難しいことは考えたくないと生返事を返した。
「へえ、そうなんだ。面白いね。」
だろだろ?と言って、嬉しそうにひとりでしゃべっているが、始業のチャイムが聞こえなかったらしい。
「おい、南。席につけ。高田は欠席か?」
今日もなんて事のない日常が始まるーーー
この世界についてのテレビを見て数日間はずっとその話をしていた南だが、1週間後には期末考査だ。そろそろ勉強させないとまずい。
「世界について考えるのもいいけど、ひとまずテスト勉強しないか。」
図書館は声を出せないし、お財布が貧しいので、放課後は教室で勉強をすることにした。
初めのうちは何かと話しかけてきたが、やっと勉強し始めたかと思ったころには寝ていた。
「はあ。こいつの成績は知らん。」
南のことは放っておいて、得意科目をさらっと勉強してから苦手科目に取り掛かる。
気が付けば、人が少なくなった教室に西日が差し込む。外を見ると夏の雲がオレンジに染まっていた。
この教室からこの景色が見られるのはあと何回だろうと考え、時がたつのは早いことに驚く。
「なに、たそがれてんの?」
にやにやしながら南が声をかけてくる。おはようと声をかけ、帰る支度をする。
なんて事のない、いつも通りの帰り道だ。
期末考査の最終日、朝から教室の空気は緩んでいた。そして南も例にもれず、ぎりぎりに登校してきて俺にいう。
「なあなあ、西山!!昨日のテレビ見たか!?!?」
昨日のテレビ見てから、色々調べてて昨日は勉強ほとんどしてないわ、と笑っている。
受験生のテスト期間中の自覚はなさそうだ。
嬉々として話し続けているが、試験監督の教師が教室に入ってきて席に着くよう促す。時間を忘れて話し込むほどのめりこむことがあってうらやましい限りだ。
最後の科目は何とも言えない手ごたえで終了し、何とも言えない気持ちで放課後を迎えた。
テレビの話をずっとしてくる南を連れて帰る。
なんでも、この世には肉体世界と精神世界があるらしい。
南は出会ったころから嘘か本当かわからない話を信じやすいとは思っていたが、大学でも宇宙について研究したいといっていた。
本屋に寄りたいというので、少し遠いが大きめの本屋に行くことにした。
踏切を渡り、大通りへ向かう。
足元を猫が駆け抜け、ビルの間に消えてゆく。
南に声をかけ、猫の後を追うと、何やら絡まれている様子で困惑顔の高田さんと目が合った。
いつもの俺なら見なかったふりをしてしまうが、目が合ってしまったことと、その相手がクラスメイトであったため助けざるを得ない。
相手はスポーツをしていそうな、俗にいう細マッチョな2人組なので、正面から戦うのは難しそうだ。
周りを見回し、作戦を考える。
横にある花屋で水とバケツを借りられるように頼んだ。
俺が細マッチョに水を掛け、南が細マッチョを横目で見て人ごみに紛れ込む。
細マッチョが南を追いかけているうちに高田さんを連れて走り出す。
こんなにうまくいくとは思わなかったが、南と行く予定だった本屋へ行き、連絡する。
併設されているカフェで飲み物を待っていると南が来た。
高田さんにさっきの男たちのことを聞いてみたが、知らない人たちで、いきなり声かけられたらしい。
いつも声をかけられることはそんなにないし、強引に逃げ道をふさがれることもないというので、家まで送り届け、「なにかあったら連絡して」と連絡先を交換してわかれた。
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