いつもと変わらない高田さん
翌日、高田さんはいつもと変わらずに登校してきた。
楽しそうに友人と話しているようだし、昨日は何もなかったのだろうと少し安堵。
昨日までは何もかかわりのなかったクラスメイトに対して、気まぐれで助けただけでここまで気にしてしまうのには我ながら驚く。
誰の事そんなに見てんの?と話しかけてくる南を適当にごまかして、前に話していた宇宙の話について質問してみた。
思った通りに食いついてきたので思わず吹き出してしまった。
何だよ~とふてくされた声で言ってすぐに、楽しそうに宇宙の構造について話し出した。
3次元や4次元ではなく11次元の可能性があるとか、時間という概念は存在しないとか。
テスト期間中も調べ続けていたからだろう、次々に口から言葉が出てくる。
勉強には興味は示さないけど、ここまで調べて難しいことも覚えるんだからすごいよなあと思う。
この間のテストは数日に分けて返された。
手ごたえよりやや点数が悪く、ポジティブに言うと伸びしろがある、事実を言えば努力不足だ。
南も点数が悪かったらしく、珍しく元気がなかった。
授業が終わって帰ろうとしていると、高田さんがこそっと話しかけてきた。
「土曜日、少し時間ある?」
どうしたのと尋ねると、お礼がしたいから土曜日の13時に前のカフェに来てとだけ言い残して立ち去って行った。
お礼なんていいのにと思いながら、今日のところは帰る。
南はテストの結果を引きずっているようで、勉強しないととは思うんだけどなあと背中を丸めてつぶやいている。同じ大学で一緒に宇宙の研究するんだろ、がんばろうぜと声をかけ、自身にも気合を入れる。
少し見上げた空は青く澄み渡り、存在感のある入道雲が夏の始まりを告げるように輝いていた。
土曜日、いつもなら昼前頃まで寝ているところだが、早めに目が覚めた。適当な朝食を作り、珈琲と一緒に飲み込む。
気付かなかったが、あの日しかしゃべったことのない高田さんと出かけることに少し緊張しているようだ。
連絡先も交換したのに直接予定を確認してきたのはなんでだろうとか、一体何の話をすればいいのだろうかと考えていたが答えは出なかった。
そうこうしているうちに時間が無くなってきたので、服を着替えて準備をする。
待ち合わせ場所のカフェに早めに到着。隣の本屋で何かよさそうな本がないか見てみる。
平積みされている本を見ていると、肩が何かにぶつかった。
顔を上げると高田さんだった。
高田さんも驚いた顔でこちらを見ていた。
時間より早くはあるが、カフェで軽くご飯を食べることにする。
メニューを注文し、とりとめのない話をしてみる。
高田さんにはまる話題を見つける前に料理が来る。
高田さんは目を輝かせて、カルボナーラ好きなのと言う。
女子ってカルボナーラ好きだよなあと思いながら、話を聞いていた。
「落ち込んだときによくカルボナーラを食べてたの。心がズドーンって重くなってても、クリームの優しい味がほぐしてくれるの」
と、少し恥ずかしそうに笑う。
感情が表情に出ていて、すごく素直な人なのだと感じさせる。
食べ終わって一息ついた頃、高田さんは少し緊張したような微笑みであの、と話だした。
「この間は助けてくれてありがとう。今日も時間作ってくれてありがとう。」
大したことは何もしてないよと応じると、高田さんは真剣な顔に変わり、笑わないで聞いてほしいんだけどと前置きする。
「実は私、天使見習いなんだよね。」
さっきまでカルボナーラを嬉しそうに食べていた彼女から、とんでもない言葉が飛び出してきた。
思わず、えっと声に出してしまった。
まじめな顔で、落ち着いたトーンで話し出すもんだから、面食らってしまって動きも止まる。
「も、もう一回言って?」
喉から絞りだした声はあまりに情けなく少し恥ずかしいが、発してしまったものは取り消すことはできないので、何もなかったように振る舞う。
彼女はまっすぐ目を見て、私は天使見習いなの、ともう一度はっきりという。
訳はわからないが、とりあえず一通り話を聞いてみようと、それで?と返す。
リアクションが薄かったからなのか、彼女は信じてくれるんだねと笑い、お礼をしたいのと続ける。
「信じたわけではないけど、一応話は聞くよ。お礼って具体的には?」
「天使の国に行ってみたくはない?」
高田さんは天使で、天使の国に連れて行ってくれるとのこと。
高田さんの出身地は天使の国なのかとか、そもそも天使の国はどこにあるのかとか色々聞きたいことはあるが、天使の国に行くってことは死ぬってことなのか、と質問してみる。
「いや、死なないよ!死神じゃないからね。天使の仕事は世界観の移動をさせるだけだから、タクシーみたいなイメージかな。死神は死者の魂だけを移動させるの。」
わかるようなわからないような。
それなら、瞬間移動みたいなこともできるのかと聞くと、同じ世界の中の移動もできるけど、普通に移動したほうが早いよと笑いながら言っていた。
きれいな所だから、水族館に行くような感じでついてきてほしいと目をじっと見つめられながら力強く言われ、思わず首を縦に振ってしまった。
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