第2話 憧れの王子は失恋済み

 もうお察しだとは思うが、バートランド殿下はすでに失恋なさっている。

 しかもプロポーズまでして撃沈している。

 

 ただお嬢様には最初から婚約者が決まっていた訳ではない。

 むしろお嬢様に先に求婚したのは、バートランド殿下の方だった。

 

 その求婚の直後からお仕えしている私は、求婚の現場は見ていない。

 かなり甘く熱烈な求婚であったことは、それを話していたお嬢様の顔からなんとなく察せられた。


 ただ私から見れば、最初からお嬢様がお好きなのは、現婚約者であるレオポルド殿下であることは明白だった。

 

 そんなレオポルド殿下に訪れたあわや命を落としかねない危機。

 お嬢様は泣きじゃくり、眠るレオポルド殿下に縋り付きながらお気持ちを吐露した。

 

「わたくし、これ以上レオポルド様を好きになってはいけないと思っていたんです。でももう手遅れでした。レオポルド様がいない世界なんて想像できません」


 その時のバートランド殿下のお顔は、見ていられなかった。

 泥を飲んだかのように苦しそうで、息もできないように口をギュッと引き結んでいた。

 もうお嬢様のお心はバートランド殿下には向かないと悟ってしまったお顔だ。

 

 殿下は天を仰いでそのお顔を隠した。

 いやもしかしたら泣いていたのかもしれない。

 

 暫くして顔を戻したバートランド殿下は、心の傷を上手に隠して苦笑いしながら言った。


「これはオレがどれだけ待っても、靡きそうにないな」


 あの光景がいまなお私の胸に、ジクジクと膿んだ傷のように疼いている。

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