#09 チラシ

 誰もいない家にその声は木霊する…はずだった。


「おかえり〜♪」

「いや…なんでいんの?」


 そこにいたのは…エプロン姿で、料理をしていたであろう妹、橘花たちばな あかねがいた。



「いやー。お父さんもお母さんも旅行に行くって言って。私があそこにいる理由もないかな〜って。」

「いやいや。理由になってない。というか学校は?」

「?…今年から高校生だけど〜?」


 そうだった。今年でもう妹は16歳になったわけだ。


「あぁ。そういえばもう16歳だっけか。」

「そうだよ〜。4月2日生まれだからね〜。」

「じゃ、高校は行ってるの?」

「通信制だよ〜。」

「いいのかそれで?」

「いいんじゃない?そこまで頭悪いわけじゃないし。」

「それでもだよ。いわゆる、青春とかしなくていいの?」

「それは、あーくんもだよ。青春してるの?頭いいだけの他なにも取り柄のないあーくんが…」

「おっと。それ以上は言わないでくれ。心に深い傷ができてしまう。」


 手で、口を塞ぐ。


「んーんんー!」


 手を離してやった。


「そういうところが青春できない理由かもね。あぁ、ご飯できたよ。食べる?」

「あぁ。食べるよ。」


 あーちゃんが作るご飯ははちゃめちゃに美味しい。僕が教えたんだけど。僕が作ると、なんとも微妙な味になってしまう。多分いろんなことを適当にしてるからだと思うけど。



 今はご飯を食べ終わって、僕が皿洗い、あーちゃんがお風呂に入っている。


『...妹なんていたんですか。』

『あぁ。言っていなかったっけ?』

『微塵も聞いてませんね。』

『ごめんって。』

『...。』

『どうしたの?』

『いや...外の方に何か...。』

『誰かいたりした?』

『いや...ううん。なんでもありません。』

『そういえばさ、さっき病院で、言ってた、朝会ったってなに?』

『あぁ、フラッターのことですね。バックに入っているんじゃないですか?』


 そう言われ、バックの中を探る。


「あった...。」


 中身はとてもシンプル。周辺の地図と、組織についてなど、いろいろ書かれている。


『明日行ってみたらどうですか?』

『そうだな...行ってみるか...ってあれ?』

『どうしました...?』

『営業日...書いてあるんだけど...』

『へぇ〜。珍しいですね、平日休みがあったりするんですかね?』

『明日がその休業日だ。』

『なんと不幸な...そんなことあります?』


「そんなとこでなにしてんの?」

「うわぁ!?...びっくりしたぁ...。」


 あーちゃんが静かに後ろにいて、耳元で話しかけてきた。


「ふざけんなよぉ…。びっくりしたなぁ…。」

「あはは!」

「本当にさぁ…。」

「でぇ、なにをみてたの?」


 どうしよう。あまりいろいろ喋るべきではないし…。


「会社のパンフレットだよ。」

「え?あーくん就職するの?」

「いやぁ、しないかな。厳しいかなと。」

「やっぱり?あー、よかった。」

「なにに安心してるの?」

「いやー。内緒♪」

「え、えぇ?」

「はい、お風呂空いたから、入ってきて〜。」

「え、ちょ、押すな。」


 ぐいぐいと部屋へ押し込みように押す、あーちゃん。なんだってんだ。


「なにがどうなってんだ…」


『嫌われているよりいいんじゃないの?』

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