#04 先輩の気持ち
「あぁ。大丈夫ですよ。
この人は部活の先輩で、住んでいる地区が同じだ。よく僕にちょっかいをかけてくるが、最近はめっきりなくなったのでもう忘れられたと思っていた。
「随分と久しぶりですね。」
「ん〜、そうかなぁ。まぁ、話しかけるのはだいぶ久しぶりだけどさ。」【T】
「……避けてました?」
「いや〜。そんなことないけどなぁ。」【T】
おっと。能力が発動しっぱなしだった。……が、僕はいつもちょっかいをかけられているささやかな反発として、彼女の発言の真偽を暴いてやる。
「本当ですか〜?」
「本当だってば〜。」【T】
「じゃ、なんでここ数ヶ月、いつものように僕をいじる先輩が、現れなかったんですか?」
「それは〜…。」【N】
そう言って固まる先輩。
「……おーい。大丈夫ですかー?」
「……黙秘権を行使します。」【N】
「喋りたくないんですか?」
「……嫌われたくないから」【T】
そんなことを超小声で言う先輩。というか聞こえたし、なんなら心の声まで聞こえてるし。俯いて【帽子】を深くかぶって顔を赤くしているんだろうが、僕の方がよっぽど恥ずかしい。とりあえず聞こえなかったことにする。
「…え?なんて?」
「……黙れ。しゃべるな。」【F】
そう言って奥の車両に行ってしまった。ありゃりゃ。これは僕の選択ミスかなぁ。渚先輩ルートはこれでなくならないといいけどなぁ。
数分後。学校の最寄り駅に着いて、電車から降りたが、先輩がいない。いろいろ見渡しているとわずかだが、先輩の腕が見えた。特徴的な【ブレスレット】をつけているのでわかりやすい。
先輩の方に行こうとしたとき、先輩が腕を引っ張られたような感じで、体が影に消えた。…が、人が多すぎて、どこに行ったかわからない。
…あまり使う気はなかったが、緊急事態だ。
【テレパシー】を使う。相手を見えなくても、相手に強制的に話しかけることはできるため、話しかける。
『聞こえますか、先輩?』
『今どこにいるかわからないので、広い所なら、腕を上げて。狭い所なら、何かものを投げて。』
『すぐ向かいます。』
すると、ここからみて、二番目の曲がりのところで、帽子が飛んできた。すぐに向かい、帽子を拾って、後を追う。
奥に進んでいくと、案の定、先輩を掴んで、動けなくしている男がいた。さて、どうしようか。
「あぁ、先輩、こんなところにいたんですか〜。というか、貴方、誰?先輩を返してくれませんか?まるで自分のものだというばかりに掴んでますが。」
「ごちゃごちゃうるせぇなぁ!!もうこいつは死ぬんだよ!」
「は?」
すると、どこからかナイフを取り出し、首元に刺そうとしている。
「おい!それ以上近づいたら、こいつを本当に刺すぞ!!!」
あらら。あまりにも絶体絶命の状況。
どうしようか。
「下衆が。」
「…なんとでもいうがいい。これは俺の腹いせでもあるんだ!こいつが!こいつさえいなければ!」
どうやら逆効果だったらしい。……さて。
「本当にどうする...?」
そんなことを考える暇なんてない。その瞬間。
『僕に任せてよ』
なんて声が聞こえてくる。
その瞬間、強打を食らったかのように脳みそが揺れ、すべての感覚が遮断されて、真っ暗などこかへと飛ばされる。なぞのせかいに飛ばされたのか?
「やぁ。ひさしぶり」
そんな声が聞こえてくる。俺はお前のことなんて知らないって言いたかったが、声が出なかった。更に、腕も身体も動かせない。俺は椅子に座っているだけだ。
「君の感覚はとりあえずなくしたよ。僕の作戦が実行できないからね。じゃ、説明をするから、静かに聞いていてね。」
そんなことを言いながら、そいつは俺の目の前に姿を現した。視覚は失っていないらしく、そいつの顔を拝むことができた。……そいつは俺と全く同じ顔をしていた。
「あは、気づいた?所謂、ドッペルゲンガーってやつだよ。さて、君には色々話さなきゃね。とりあえず。一。この後、僕に体の占有権を渡すこと。二。それが終わった後も僕の独断で占有権を取らせること。三。二の権利は君にも渡す。どうだい?」
そんなこと言われたって、なんでお前が俺にそんなことを頼むんだよ!?
「まぁ、そりゃそうか。君は僕のことは知らなくていいんだよ。じゃあ、僕の言いなりで精々動いてね、カモさん」
という音を最後に、俺の意識は消えた。
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