俺の世界救済は間違っていた。

荒ぶる米粒

第1話 プロローグ


 東京の1Kボロアパート。


 住んでいるのは俺、現在18歳のフリーター、 狩上升也かりうえますや

 訳あって大学にも専門学校にも就職活動もせず、高校を卒業した。


 新作のモンパンが出てしまい、ひと狩りどころではなくなってしまった、ということも多少はある。


 だけど問題はない。

 猟銃免許を取って、リアルハンターをのんびりしようと思っている。


 唯一進路相談した幼馴染の花澄かすみは「ゆっくりでいいと思う! マス君はそういう才能!」と謎に背中を押してくれたし。


 しかも花澄はもう、罠猟の免許を取ったんだっけな。


 何を罠にかけるつもりかは知らないが、すぐ行動に移せるあの才能が羨ましい。



 今はバイト終わりの帰宅後。

 俺は日課となっている某掲示板を眺めている。


 新規順で検索。

 一定間隔で更新連打。

 片手には携帯ゲーム機。

 


 そして、立ったばかりのスレに目が止まった。


 ────『異世界の勇者だけど質問ある?』


 レスは全くつかないだろうな。

 どこも過疎ってきてるし。


 やれやれ、『2. 1>>ネラー勇者乙、魔法はよ』っと。


 エンターキーを押した瞬間。


 部屋中の壁が光った。

 漫画やアニメでしか見たことがない無数の魔法陣に埋め尽くされた。


 そして。


「────君だよね? 私の魔法を見たいのは」


 真後ろに、が現れた。


 脳に直接響くような音色の声。

 髪は銀髪。腰まで伸びて白い肌によく似合ってる。

 眉、睫毛も銀色に染まり、瞳は翡翠のようなエメラルドグリーン。


 彼女は全身を屈ませながら地面に手をついている。


(どうした、俺。疲れすぎだろ)


 あのポーズは確か、未来から来たムキムキマッチョロボットのヤツ。

 最後にサムズアップしながらマグマに入りたいのか。


────デデン、デン、デデン。


 既に例のBGMは頭に鳴り響いている。


 全ては夢、幻覚の類だと思うが一旦、会話をしてみようか。



「ゆ、勇者さん? 書き込んだのは俺ですけど、その前に服……は?」


「良かった。勇者のユシナだよ! 服は必要ないかな〜」


 昨日の粉を運ぶ怪しいバイトのせいか?

 ちょっと吸っちゃったかな。

 まぁラリってるなら楽しもう。


 座っていた回転椅子をぐるりと回し、向き合う。


「…………そうなんですか、ハハッ」


「魔法はさっきのワープで楽しめたかなあ?

 もっと見たい? 火炎魔法とかあるよ!」


「もう大丈夫です。というかここ木造なんです」


 ラリっててもしちゃいけないことはある。

 そろそろ夢から覚める時だ。


 気づいたら放火魔になっていた…………。

 なんて洒落になってないし。


「つれないなあ、せっかく用があって来たのに」


 と言って立ち上がるユシナさん。

 やれやれ、という手振りつき。


「用? 俺にですか?」


 質問した俺の回転椅子、その背もたれに擬似壁ドン。


「うんっ! それも


「…………!?」


 顔が近い。

 幻覚じゃない……のか。



「────全裸RTA、しよ。日本に出来たダンジョンで」


「いえ、結構です」


 即答した。


 RTAってリアルタイムアタックだろ。

 ゲームでクリア時間を最速を狙うやつだ……。

 それに日本に出来たダンジョン? 意味が分からない。


 放火魔の次は一体何をさせたいんだ。



「先っちょだけでも、どうかな?」


 怪しすぎる常套句。

 それに異世界の勇者がRTAなんて言葉、知ってる訳ない。


「最後までやるパターンじゃないですか。嫌です」


 ユシナさんは椅子の肘掛けに両手それぞれを置き、しゃがんだ。

 銀色の睫毛、緑の瞳の上目遣い。


「じゃあ土下座かなぁ? 勇者であるこの私が、全裸で?」


「全裸なのは最初からですし、しなくていいです。

 俺が悪いみたいに見えるんで絶対しないでくださいね?」


 この変態勇者ユシナさんは一体いつから地球、いや、日本にいるのか。

 異世界の勇者をすらも毒してしまう日本も大概だが。


 というか、ユシナさんに他の仲間はいないのか。

 スレタイ的には異世界の勇者と書いていたが。

 勇者というんだから仲間の一人や二人……。


「押すなよ、いいか絶対に押すなよ? ってこと?」


「ううん、違いますよ。まともな人は他に来てないんですかってことです。賢者さんとか、話わかりそうな人」


 営業スマイルできちんと否定。


「……………………さぁ、どうだったっけなぁ。んじゃ、行こっか」


 謎の間。

 そして、手を握られる。


 リアルな暖かさを持った手。


 完全に幻覚ではないことが解ってしまった。


「いやいやいやいや────」


────強制転移。


 ロマンもクソもない。

 視界はただ真っ白。

 フラッシュバンが目の前で炸裂した感じ。


 眩しくて、瞬きをした。


 すると。

 知らない場所に居た。

 周りに見えるのは辺り一面に生い茂る木々。


 ここはその中でも開けた場所。



「ダンジョンはダンジョンモグラによって作られていくの。

 ヤツらは繁殖し、掘られた空間は異界化する。ま、見たら早い。よっと」


 勇者ユシナさんは説明しながら、空中に化け物の映像を投影した。

 今地下で絶賛穴掘り中のダンジョンモグラである。


 (でかい。全長10mはあるだろ……これ)


 乱ぐい歯で涎を垂らし、毛は紫と黒の斑模様。

 鼻と思われる部分からは沢山の触手が蠢いている。


 猛スピードで穴を掘っているみたいだ。

 ちょっとシュールだと思ってしまった。


 とはいえ。


「こっわ。てかここ何処ですか」


麹町森林公園こうじまちしんりんこうえん

 ────山手線が作る円、その


「もしかして、ここに…………ダンジョンが?」


「そう。でも大丈夫。

 まだモグラは2体しかいない、やれる」


「2体も!? やれるならユシナさんがやってくださいよ!

 俺なんか連れて行っても足引っ張るだけですって!」


「怖いのは最初だけだから!」


 と言いながら、さらに空中に小さな魔法陣を作り。

 白く輝くその中から一本の────剣を取り出す。


「無理無理! 何故俺なんですか!」


「理由はある。とりあえずこれを渡すね!」


 軽々と持った片手で持ったそれは、俺の手に渡り。


「おっっっっっっっっっも」


「なぜ筋力値をあげてないの?」


「いりませんよ! ただのフリーターですよ!?」


「要らないのは衣服だけだよ」


「いりますよ!」


「防御は甘え。攻撃こそ最大の防御」


「攻めすぎですから! ここは公園ですよ! 露出狂ですよ!」


「ちなみにあそこね」


 穴が空いている。

 20mほど先の地面に、真っ黒い穴が。


「いや、完全にヤバそうですけど」


 そこに、ユシナさんに背中を押されていく。


 ん……おかしいぞ。入るとしても一緒だよな?


「ゆ、ユシナさん? 一緒に入るんですよね?」


「さぁ?」


「さぁってなんですか! ちょっと!

 無理ですよ絶対! あんな化け物!」


「私は地上に残って、とか作らないといけないし」


「はい!?」


「早くしないと山手線の内側は全部、下が見えない真っ暗な穴になる。

 穴の側面は絶対零度の絶壁。モノレールっぽくなっちゃうね」


「じゃあ勇者のユシナさんが早く倒してくださいよ!」


「それが────、なんだよね私。てへっ」


 拳を丸めて、可愛く頭をコツンとする。

 ウィンク付き。


「!? てへっじゃないですよ! 

 今更何言ってんですか! つまり俺だけってことじゃないですか!」


 もう穴の目の前。

 一歩でダイブ出来そうだ。


 後ろの露出狂の声が急に低くなり。


「────冒険譚は光り輝く。財宝は富を。その聖剣は救世の証だ」


 背中をつよく押された。

 落ちる。


「格好良く締めようとしても…………ってちょおおおおおおお!」

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