壊れてしまう、その日まで。

昼の猫

第1話    予言

「いよいよ、明日に迫ってきました。1999年のノストラダムスの大予言から500年。再び、世界が滅びてしまうという予言がされました。前回のこともあり、信じていない方、信じている方が半々となっています。では、街のインタビューの様子をご覧ください。」


機械が発する無機質な声。


人間の形こそそっくりなものの、変わらない表情に不気味なものを感じる。



画面に映っているのは、インタビューをしているVTR。


だらだらと街の人々が、思い思いの言葉を話している。



私はどちらかと言うと、信じていない派だ。


ただ、もしかするとと思い、大量のお菓子を買ってきた。



ほとんどなくなったお菓子の袋を見つめながら、ぼーっと考える。


世界が滅びると予言した占い師――ヴィラン。


日本語でいうと悪役、だ。


平凡な日々に、突如世界の終わりを告げ、人々に恐怖の種を芽生えさせた。


そういう意味なら、悪役という名前も、ぴったりなのかもしれない。



「世界が、滅びたなら…。」


ポテトチップスを食べたせいでカラカラになった口で、呟いてみる。


そしてはっと、周りを見渡す。


部屋には自分以外いない。


わかっているはずなのに、こんなことを言ってしまった後は、誰もいないか確認してしまう。


理由は、怒られるから。



――この世界は、死が罪とされている。


といっても、死んだ人間を生き返らせることはできない。


だからその代わり、老人はこの国――昔でいう『日本』の中央に集められる。


そして、100年ほど前に開発された、長寿の薬、『ユーゼス』で生きながらえさせているのだ。



生は尊いもの、死は罪深いもの。


そんな価値観が生まれたのはいつからだったのだろう。


私が生まれる前からあったのは確実だ。


はじめは、少子化問題の解決に向けて、と題してやっていたらしいが、あの薬のせいもあってそんな問題はとっくに解決されている。


なのに、なぜ変えようとしないんだ。


答えはわかり切っている。


この国の国民、いや世界中の人々といっていいだろう。


その人々は皆、されている。



「私が洗脳されないのは、私が狂っているせいなのか?」


そう言って、ふっと鼻で笑う。


勿論、私は狂っていると思う。けれど、それと同様に世界も狂っているのだ。



私は、死に抵抗がない人間だった。


周りが以上に死に恐れている中、それを不思議に思うような。


多分、ここが普通の世界だったらとっくに死んでいたと思う。


それをしなかったのは、この家の名誉を守るためだ。


この世界で自殺なんてしようものなら、その家は近所や町から批判をされまくる。


だから、家族――いや、私の――のために、やめておいた。






そばにおいてあったサイダーを一気に口に流し込む。


「っごふ、ごほっ」


むせてごほごほ、と咳をする。


けれど、むせたのは、決して飲み方が悪かったわけじゃない。


「ね、姉さん!?」


私の目は、テレビにくぎ付けになっていた。


テレビは、『占い師ヴィランが初顔出しをした!』という特集をしている。


もちろんそれなりに気になる内容だ。けれどそれ以上に驚いたのは、

そのヴィランの顔が姉さんにそっくりだったことだ。


「ロイド、姉さんと通話できるようにして!」


ロイドとは、アンドロイドの略で、様々な仕事をしてくれる人工知能だ。


3Dモードにすれば、人の形にもなれる。


私は、私よりいくらか背が高いイケメンに設定している。


「はい。かしこまりました。通話モードにします。」


ピロンと音がして、


「はい」


と姉さんの声がした。


直ぐに、


「姉さん!?予言者って、姉さんだったの!?」


と聞く。


姉さんは焦っている様子もなく、答えた。


「うん、そうだよ、朱音あかね。『…世界は明日の0時に終わります。』」


少し声色を変えて、優日ゆうひ姉さんが話すと、それは予言者ヴィランの声そっくりだった。


「でも、何であんなこと言ったの?占いとかできたっけ。」


気になって聞いてみる。


でも、姉さんとはなかなか会えなかったし、何でもできる姉さんだったら、できてもおかしくない。


しかし、帰ってきた答えは、予想と全く違うものだった。


「いや?全くできないよ。」


「え⁉でも、ヴィランって、占いが当たることで有名だったよね?」


どういうことかと聞く。


「ん~、まぁね。なんでかは教えない。…今は。」


でも姉さんは言葉を濁すだけだった。


「ねぇ、どういうこと?『今は。』って、後から教えてくれるの?」


「朱音。知るのは良い事だけど、同時に悪いことでもある。だから、今は駄目。」


久しぶりに、姉さんの怒っている声が聞こえた。


「…分かった。」


仕方なく言うと、姉さんは仕方ない、という風に


「じゃあ、少しだけ教える。朱音は私より数秒遅く生まれただけで、姉さん姉さんって慕ってくれる。けど、あくまでも双子。朱音と考えることは一緒だから。」


と言った。


「あ、ごめん。先生が来たから。じゃあ切るよ。」


それだけ言ってプツっと通話が切れた。


もう少し話したかったのに…と、ため息をつく。



先生とは、姉さんの家庭教師だ。


けれど、本当かは怪しい。


私が姉さんとビデオ通話をしているときも、先生が来たとわかると、必ず声だけの通話にしたり、切ってしまうからだ。


それに、奇跡的にその先生を見れた時があったのだが、白衣を着ていた。


家庭教師は白衣を着ているものなのか?



そもそも、姉妹なのに別れて暮らしているのはなぜか。


私が、16歳で仕事を始めたとき、だったらまだいいが、別れて暮らし始めたのは5歳の時なのだ。


『姉さんは特別、頭がよいから、特別なところに行ったのよ。』


母の声が鮮明に思い出される。


大っ嫌いな、私を裏切ったあの声。


大学を15歳の時、飛び級で卒業して、仕事を始めてからはもう会っていない。

姉とはよく会っているみたいだけれど。


とにかく、なぜ優日姉さんがヴィランだったのか。


占いができないのに、当たっていることは何故か。


姉さんが隠していることは何か、先生の正体は?


姉さんが言ってたことの意味は。


世界が滅びるのは本当か。



…だめだ、謎が多すぎる。


けれど、調べるのは大変だとわかっているのに、好奇心が溢れ出す。



テレビはヴィランの特集から変わり、およそ4、500年前のアルバムが発見されたというニュースだった。


「アルバムか…!」


アルバムのデータは、ロイドの中にあるから、それで思い出を、思い出してほしいと姉さんに言われたことがある。


 早速何かわかるかもしれない。


「ロイド、アルバムのデータを映して。」


これで壁に、アルバムの写真が映し出されるはず。


私は写真が映し出されるのを待った。


「ん?」


「ロイド、アルバム、映して?」


「申し訳ありません。」


 なんで謝るんだろう?


「確かに先程までありましたのですが、丁度――優日さんと通話した直後、アルバムのデータが消えました。

保存していましたので、何者かによって消されたものと。」











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