ソロ廃線セレモニー
Tonny Mandalvic
ソロ廃線セレモニー
住宅もなく、あたりには草原だけしか広がっていない無人駅。
過疎化によって人が都会へと逃げ出したので利用されなくなったこの駅が妙に気に入り、年に1回ぐらい行くようになった。
しかしながら、住民の利用がないので、ついに通っている線路ごと廃線されることとなった。
最後に停車する列車に乗って降り立つ。
運転手は怪訝そうな顔をして降りる俺を見る。
さあてこれからどこへ行こうか。
駅舎を閉鎖する作業員の邪魔にならないように逃げだす。
最低限の閉鎖を終え彼らは帰っていった。
夜遅くにやる必要もないし、いたずらされなければいい程度に考えていたのだろう。
さてここからどうしようか。
立ち入り禁止と書かれたホームへの入り口。
鍵のかけられた駅舎。
夜を過ごすには非常に厳しい環境となっている。
幸い今日は雨が降らなさそうだ。
どうせ誰もこんなところを通らないので、僕は適当にテントを張って寝ることとした。
ともかく寒い。
ここで一晩を過ごしたら、死んでしまうかもしれない。まあ、別に死んでも自分の人生なのですごくどうでもいいことだろう。
一晩過ごしながら、初めて降り立った日のことを振り返る。
誰も乗らない列車に乗って、最果てまで行こうとして、戻ってきたときに時間が余ったので、折り返しの列車が1時間以内のこの駅に降りてみた。
そうすると、そこには何もないが広がっていた。
何もないので、降りる人は自分しかいなかった。
ほかの連中も、海が見えるとか、車で到達不能だとかということに興味があるだけなので、こんな駅には興味を示さなかったようだ。
それなので一人になれるスペースとして集中できることもあり、この駅に足しげく通うこととなった。
ともかく暇な時間を見つけて降りて行った。
ほぼ毎回降りる客は自分だけだった。
たまに自分以外の客が降りることもあったが、同様に1時間後に一緒の電車に乗って帰ることとなった。
そして最後の日が来ることが決まった。
こんな駅だらけの線路のために、鉄道事業をし続けることは慈善事業でしかない。
また、地域住民は車さえあればどこでも行けるし、車があるほうが早いし、安いので車しか乗らない。
たとえ運転できなくなりそうな高齢者でも、車の運転をしている。
そうしなければ身の回りのことができないからだ。
最終日が近づくにつれて、僕は足しげく通うこととなった。
記念に乗っている同様の集団を見て、僕は、こんな奴らが大量にいれば鉄道は廃線しなくて済むのにと思った。
また、観光協会がイベントをやっているのを見て、どうせ高校を卒業したら年に1回も乗らない列車のためにイベントを起こしてやるなんて虫のいい話ではないかと思った。
そして最後の日、どうせやるなら自分が最後の利用者になることとを考えて、最終電車でこの駅で降りた。
明日の朝1の振り替えバスまで一体何をしたらいいのだろうか。
何もすることもなくこの駅の思い出に浸っていた。
次の日の始発の代行バスに乗ろうとすると、運転手がこんなバス停で乗る奴がいるのかという目で僕を見てきた。
最後に世界で僕以外のみんなが見放した駅にヤンデレのように付きまとうのは駅にとって幸せなのだろうか。
素直につぶしてしまったほうがいいのか。
自問自答しながら僕はバスに乗った。
ソロ廃線セレモニー Tonny Mandalvic @Tonny-August3
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