第18話 仲間と初めての冒険へ

 部屋から出ると、ゆうなと剣児はニヤニヤしながら歩いてきた。

 二人は待っている間、俺が何の職に就くか再度意見を交わしていたのだろう。


「お疲れ様だぁ!」

「お疲れ様でした。あの部屋なんか広いですよね。真っ白な部屋で心が浄化されるような。それで、出野さんは何の職にしたんですか?」

「おらは僧侶じゃねぇがなって思ったんだけど、当だってら?」


 剣児は僧侶予想か。

 俺が前に僧侶に感動していたことを聞いてたんだろうな。

 

「二人には申し訳ないが、俺は???の職を希望した」

「っどぇ!?」

「えっ!?あれだけ外れ職が多いって注意したのに何でですかっ!?」


 二人は意表を突かれたように驚いた。

 ゆうなに関しては、怒っているような呆れているような顔になっていた。

 俺は構わず理由を話す。


「やー、なんか勇者になれっかなーって思ってさ」

「???を選んで勇者になれる人なんて稀中の稀ですよ、もう!夢見すぎですよ!私、出野さんのために注意したんですからね!」


 ゆうなは腰に手を当て、人差し指を立てながら俺に苦言を呈してきた。

 横にいる剣児もきょとんとした顔でこのやり取りを見ていた。

 こりゃ想像以上に怒っているな。


「……もうやってしまったのはしょうがないですけど。まぁ本人の意思ですのでこれ以上私がとやかく言うのは止めておきます。それで結局、出野さんの???は何の職だったんですか?」


 少し落ち着きを取り戻した様子で、俺はひとまず安心した。


「それがさ……」

「何ですか?勿体ぶらないでくださいよ」

「分がった、遊び人だべ?」

「違うなー。多分これを聞いたら違う意味で驚くと思うぞ」

「どういうことですか?早く教えてくださいよー」


 ゆうなと剣児は今、色々な職を想像しているはずだ。

 そんな二人を余所目に事実を伝える。


「俺は召喚士になった」

「「えーっ!えぇ!?」」


 予想通り、仰天と疑問が入り交じったような反応であった。


「やはり驚いたな。でも一番驚いたのは俺だ。勇者なら儲けもん、それ以外の所謂レア職でも同じく儲けもん、外れ職だったら笑いもんだったんだが、何故かそれのどれにも当てはまらない召喚士になってしまった」


 ゆうなは少し間を置き、疑問を口にした。


「あれ?でも召喚士の適性もありましたよね?普通???の職を選んだら、占い師から言われた適性以外の職に就くことになるんですが、どうしてですかね?まぁでも召喚士は基本職で、外れ職ではないですから一旦このままでもいいかもしれませんね」


 適性以外の職に就くはずがこんなことになってしまった理由は俺も聞きたいところだ。


「適性云々の話は俺にも分からん。中の爺さんは何にも言ってなかったけどな」


 しかしゆうなの言うとおり、一先ず召喚士で冒険してもいいかもな。

 すぐに転職もできるし。


「あっ!分がった!間違ったんじゃねぇが?(迫真」


 剣児が俺の肩を叩きながら迫真の表情でそう言ってきた。

 キリッとした表情とは違う、何か重大な事実を告げるような表情。

 剣児のその説得力のある表情を是非取り入れたい。

 今度使ってみよう。

 

「その可能性もありますが出野さんはどうしたいですか?私もさっきはあんな感じで言っちゃいましたけど、最終的には出野さんの人生ですし。出野さんの中でやっぱり???が諦めきれないのでしたら転職の手続きをしたらどうでしょうか?」

「んー、そうする(迫真」


 俺達は近くにいた案内人を捕まえ、事情を説明し転職の手続きを行う事とした。

 待機している冒険者もいないので、すぐに俺は再びあの部屋に入ることができた。

 そして中央にいる爺さんに話しかける。


「おい、間違ったのは許すから、もう一度祈りを捧げてくれ」

「はて?何にも間違ったことはしとらんぞ」

「いやいや、俺は???を選んだのに召喚士にしただろ!」


 すっとぼけていたかのように見えたが、次の発言で爺さんは間違っていなかったことを理解する。

  

「そういうことか。お主の職は下級職の召喚士ではない。特別職の【しょうかんし】だぞい」

「どういうことだ?」

「言葉として伝えるのはちと難しいな。そうじゃ、お主冒険の書を持っているだろう?それに手を当ててみい」


 俺は冒険者の書を取り出し、言われたとおり手を当てた。

 文字が徐々に浮かび上がってくる。

 そこには【職業:しょうかんし】と表示されていた。


「これは……?」

「私にも分からん。下級職の召喚士とはまた異なる職であることは確かだ。私も数々の職を見てきたが、こいつは初めての職だ」

「そうだ、私が神に祈りを捧げたときに魔力に包み込まれただろう?その時どんな気分になった?」


 あの時、俺は呪いにしては心地良いなと感じていた。


「んー、暖かいというか、心地良いというか」

「そうかそうか。では悪い職ではなかろう。精一杯全うすることだ。ほらほら、用が済んだら出た出た」


 そう言われ追い返された。

 扉を開くと、二人は神妙な顔で待っていた。


「やっぱり間違いでしたか?それで、次は何の職になったんですか?」


 間違っている前提で話を進めてきた。

 

「結論から言うと間違いじゃなかった。下級職の召喚士ではなく、特別職のしょうかんしだった」

「何ですかそれー。言いくるめられた感が満載ですが」

「いや、本当なんだ。見てみろ」


 能力値の部分を器用に隠し、冒険者の書を見せる。

 俺は異常な能力値なんか見られたら一貫の終わりだ。


「本当だ!しょうかんしって子供っぽく書かれてますね。もしかして出野さん子供っぽいところあるからそうなったんじゃないですか?」


 そう言うゆうなは少し意地悪な笑みを浮かべていた。

 剣児もそれにつられて少し笑っていた。

 ともかく、とりあえず俺の職が決まった。

 しょうかんしっていうのが、何か腑に落ちないがもうなってしまったものはしょうがない。

 特別職だから転職もできないだろうし。


「出野さんの職も決まったことですし、早速行きましょうか!」


 俺達はレベル上げもかねて、剣児の爺さんがいる東通村に向けタンナーブを出発した。



◇◇◇◇◇◇



「うぉー、やっぱ自然の空気はうめぇなー。タンナーブさ来てがら初めて外さ出だじゃ」

「私も久しぶりに出た。今の状況だと、基本的に冒険者登録をしてる人や商人じゃないと出られないからねー」


 タンナーブを出た剣児とゆうなは、関所を背にしてそんな会話をしていた。

 俺はというと、先程関所で一悶着があったのでそんなさっぱりとした気分にはなれなかった。


「いやぁ、あんなに焦る出野さんの姿は見ていて笑えましたよ」

「んだな!」


 関所を通る際、冒険者の書の提示を求められ、更に登録者情報のページまで確認されそうになったが、焦った俺はそれを断固拒否した。

 その姿を見て、「この人、能力値が思ったより低くて誰にも見せたくないんですよ」とゆうなが発言したことにより笑い者にされたのだ。

 同情され、ようやく通ることを許されたが、俺の気分は冴えない。


「よーし、確認しましょう。途中寝泊まりするとして、ここから歩いて東通村までは約二日ね。寝泊まりする用のテントや、もしもの時のための薬草とかの必要な物は私が持ってきたから大丈夫として……」

「どこにテントがあるんだ?」


 特に大きな持ち物がないゆうなの身なりを見て、俺は疑問を抱いた。

 ヤクソウと言う言葉も気になるところであったが。

  

「この巾着の中に……」


 ゆうなは身につけた小さめの巾着に手を入れガサゴソし始めた。

 そして巾着よりも大きなテントが出現した。


「ほう、そんな便利な巾着があるのだな」


 最初のほうの俺ならば驚いているはずだが、もう感覚が麻痺しているのか何も思わなかった。

 ついでにヤクソウの事も聞いたが、HPを回復する草だということだった。

 回復する魔法があるくらいだし、それについても特に何も思わなかった。


「あっ!大事なものを忘れた!」

「なに忘れだんだ?」


 ゆうなは斜め上に目線を上げ、何かを考えている様子だ。

 しかし考えが及ばなかったのか、溜め息混じりに話し始める。


「あー、出野さんが職に就いたら、その職に合わせて武器をと思ってたんですよ。私も剣児君も一応武器は持ってるから、出野さんだけ無いのもなぁと思ったんですが……」


 俺もすっかり忘れていた。

 戦闘に関しては別に武器は無くとも拳で何とかなるし、魔法も普通に使えるから問題はないが、俺は建前上、新米の冒険者だ。

 武器が無いと基本戦えないはずだ。

 そういうのも含めて人間という設定の俺を演出していかなければな。

 しかし、しょうかんしってどんな武器を使えばいいんだ?


「おー、そんなことを考えてくれていたのか。ちなみにしょうかんしの武器は一般的には何なんだ?」

「うーん、下級職の召喚士と同じなら杖ですかね?簡単に言うと木の棒……みたいな?魔法使いが使っているような感じのものです」


 俺の配下である【エンセイジョー】が使っていたものだな。

 あいつは魔法が得意で、杖から魔法を出していたしな。

 俺は配下の姿を思い浮かべ何となく想像ができた。


「どうしましょうか。武器が無いとレベル1なので危険ですね。一旦戻りましょうか?」


 また関所の男に笑い者にされるかもしれないのでそれは回避せねば。

 そう思った俺は、ゆうなの問いかけに対し首を横に振り、足元にあった人間の手ほどの大きさの、小さな木の枝を拾った。


「とりあえずこれでいい」

「えっ?」


 ゆうな、俺も同じ感情だ。

 自分でもこの展開は強引すぎると感じている。

 しかしタンナーブに戻ることは許されないのだ。


「出野さん!それだばダメだって!」


 珍しく剣児が苦言を呈してきた。

 その真剣な表情からは、俺の心配をしているような様子が伺えた。

 ゆうなもうんうん頷き、剣児を応援するような目で見ていた。


「出野さん!こっちのほうがいいど!(迫真」


 俺が持っている枝よりほんの僅か大きいくらいの木の枝を剣児は渡してきた。


「お、おう。これならどんな魔物でも倒せそうだな(迫真」


 俺はその木の枝を受け取り、感触を確かめるように軽く振った。

 振るまでもない事だが、剣児の気持ちを無下にはできない。

 二度三度と振りながらゆうなの方をチラチラ見ると、呆れたように巾着をしまい、東通村の方角へ歩き始めた。

 事実上、タンナーブに戻らず突き進む事が多数決によって決まった。

 そして俺も、【木の枝】という武器を手にいれた。

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