第11話 職とは

 話の流れで俺と目の前の彼女は仲間として組むこととなった。

 立ち話もなんだし、近くの机で話をすることにした。

 いきなり現れ強い勇者を求めてきた場違い極まりない無職の男と、女勇者というギルド内から煙たがれる存在の女が同じ机につくという異質な光景を目の当たりにした冒険者達は、ひそひそと何か会話を始めていた。


「私の名前は【小笠原ゆうな】。歳は15歳。小笠原でもゆうなでも呼びやすい名前で呼んでいいですよ。あなたの名前は?」

「我が名はハ……こほんっ。俺は出野ハーだ。あの男の言っていたとおり、無職だ(キリッ」


 散々無職であることを馬鹿にされていたので、逆に誇らしげに言ってみた。

 

「私は出野さんって呼びますね。出野さんはなんで職に就かないんですか?」

「んー。特にお金が欲しいとも思わないし、働きたくもないからだな。しかも冒険者登録を済ませたから、ぶっちゃけ働く時間ないと思うんだけど。みんなどうやって両立してるんだ?」


「えっ?基本冒険者は職に就かないと魔法や特技は覚えられないと聞いてますが。……あと働くとは?」

「えっ?職って家畜を育てるとか誰かの家を建てるとかそういうのじゃないの?」

「えっ?」

「えっ?」


 話が噛み合わなかった。

 もしかして俺が思っていると彼女が言っているは違うかもしれない。


「ふふっ。出野さんは冒険者になりたてだから分からないんですね。職というのは魔法使いや剣士といった戦闘職のことですよ」

「なんだ、そういうことか。だから俺が無職だと言ったらみんなそんな反応してたのか。その職ってのは選べるもんなのか?」


 俺は今の今まで勘違いをしていたようだ。

 職というものを理解したら、今まで色々な人に職を勧められたことの意味が分かった。


「職に就くことは簡単ですよ。このギルドの横にある【職業神殿】ですぐに何かしらの職に就けますよ」

「ほう、ではまずはその職とやらに就こうか」


 大体の魔法は使えるし、剣技なんかもお手の物だが、どんな職があるか興味があったので神殿に行くことにした。

 一番強いと言われている英雄さんに会ったときも、流石に無職なのは悪印象な気がするし。

 そして俺達はギルドを出て、すぐ横の職業神殿に向かった。


「そういえば出野さんは何歳ですか?」


 ゆうなが唐突に質問をしてきた。

 俺はおよそ800歳くらいだけど、人間はすぐに寿命がくる生き物だと聞いていたのでばか正直に答えても驚かれるだけだ。

 魔物は基本殺されたり自ら消滅しない限り、ほぼ永遠に生きられる。

 でも俺って人間から見たら何歳くらいに見えるんだろう?

 その疑問をそのままぶつけてみた。


「何歳に見える?」

「えーっと、25歳くらいかな?あっ、嫌な気分にさせちゃったらごめんなさい」


 俺は25歳くらいに見えるのか。

 実年齢よりだいぶ若く見られたことに、ちょっと嬉しい気持ちになった。

 まぁ俺自身この世に誕生した時からこの姿なので、魔界でも25歳は通用するけど。


「じゃあ25歳だ(キリッ」

「じゃあって何ですかっ!あと、無職だって言った時もそうですけど、そのキリッというキメ顔やめてください。何か笑いそうになります」


 俺は東通村で出会った爺さんがやっていたキリッとした表情を「かっけぇー!」と思い使っていたが、現実はそうではなかった。


 そんな話をしていると職業神殿に到着した。


「いらっしゃいませ。当神殿のご利用は始めてですか?」


 中へ入ると受付の女性が声をかけてきた。


「あぁ、はじめぶごっ」


 俺はゆうなに口を押さえられた。


「い、いえ、初めてではないです」

「ふがっ、ふがっ!」

「では新たに職に就きますか?それとも転職ですか?」

「ふがふがっ!」

「この男性が就職を希望です。利用したことがあるので後はこっちでやりますね」

「かしこまりました」


 受付の女性から離れ、ようやく俺の口から手が離れた。


「おい、いきなりなんだよ、俺は初めてだっつうの」

「すみません。強引すぎましたね。でもあの人かなり話が長いんですよ。初めての人には特に」

「へぇ。でも俺は初めてだから、説明を受けないと頭に入ってこないじゃん」

「出野さん、私見てましたよ?出野さんが冒険者登録のとき、途中から話を聞いてなかったのを」


 ゆうなの観察力に少し驚いた。

 俺を仲間に入れたいが為に見ていたのかもしれないが、それでもその観察で得た僅かな情報を基に行動できるとは素晴らしい。


「あー、バレてたか。じゃあゆうなが簡単に説明してくれよな」

「はい、もちろんです。長い話が苦手な出野さんに、受付の女性が話す内容を私が要約して伝えます」


 んー、俺のためにやってくれてるのは重々承知しているが、なんか俺頭悪い子みたいになってないか?

 そんなモヤモヤした感情を抱きつつもゆうなは続ける。


「まずは就職するにあたり、どの職に就いたら最大限能力を発揮できるかの適性を調べます」

「俺に勇者の適性はあるのか?」

「だまって聞いてください。人によっては一つや二つしか適性がない場合もあります。適性は神殿内の占い師に占ってもらいます。私は勇者としての適性もありましたが、他にも魔法使いや剣士など色々な適性がありました。ちなみに勇者としての適性は極稀です」

「ほう、俺も勇者のて

「だまって聞いてください」


 俺の質問は尽く遮られた。

 絶対頭悪い子に言い聞かせるモードに入ってる。


「各職業の適性は日々の行いの積み重ねや家系、身体能力等で決まります。誰もが色々な適性を持っているわけでもないです。例えば剣士の適性しかない場合もあります。しかし、あくまでも適性であって、適性を持っていなくとも望めばどの職に就くことも可能です。例外はありますが」

「てことは俺もゆ

「だまって聞いてください」


 もう質問は諦め、さっき拾った柿ピーを袋から出し、ボリボリ食べながら話を聞くことにした。

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