第10話 勇者 小笠原ゆうな
冒険者登録を終えた俺は、晴れて勇者を探すことにした。
とはいえ、やはり見た目で勇者を探すのは非常に困難であった。
少しでも情報収集をしたいので話を聞きたいのだが、タイミングが悪く皆忙しそうにしていた。
商人から貰った柿ピーをボリボリ食べなから周りを観察していると、建物内に人間がびっしりといる中、数名の男女が席に着いている机の周りだけぽっかりと空いているのを見つけた。
中央に座る銀色の鎧を纏った金髪の男は足を机に上げ、椅子の背もたれに肘をつき座っていた。
これは……、暇そうだから答えてくれそうだ。
そう思った俺はその人間達に話しかけることにした。
「このギルドの中で一番強い勇者を探している。誰か知らんか?」
「はぁ?強い勇者だぁ?そりゃあ俺のことだろう。俺にかかれば魔王討伐なんてちょろいもんだ。で、俺に何の用だ?」
銀色の鎧の男がニヤリとしながら答えた。
一発で見つけるとは、なんて俺は運がいいんだと内心ガッツポーズをして、話を続けた。
「お前が一番強い勇者か、なら良かった。俺を仲間に入れてくれ。何なら今から魔王を倒しに行ってもいいぞ。魔王を倒したら外してくれて構わない」
「あ?上から目線で頼んでんじゃねぇぞ?お前みたいな柿ピー持ってる弱そうなやつ誰が仲間に入れるってんだよ」
周りを取り囲む人間らがクスクス笑っていた。
あれ?俺笑われてる?それとも柿ピーが笑われてる?
どちらにせよあんまり良い気分ではなかったが、折角のチャンスを逃すまいと俺も引き下がらない。
ギルド内にいる人々が、俺と銀色の鎧の男のやり取りに気付き遠くから様子を伺っていた。
「俺は弱くはないぞ?しかも俺をこんなお願いをすることなんて滅多にないことだぞ」
「脳内お花畑かよ。じゃあお前よ、職は何だ?」
目の前のこいつも俺の職を気にしている。
どいつもこいつも職、職、職って何なんだ?
しかし職に就いてない俺が返せる答えは一つ。
「無職だ」
「だーはっはっは!こいつは傑作だ!」
周りを取り囲む人間らも腹を抱えて大笑いをし
、遠くで俺らの様子を伺っていた人間も笑いを堪えているようだった。
「冒険者のくせに職に就いてないなんて話にならないな。出直してこい!だーはっはっは!」
んー、話にならんのはこっちだ。
ここまで言われた俺はこの勇者の仲間になることを諦め、手に持っていた柿ピーをボリボリ食べ始めた。
やはり英雄さんを見つけ出すほうが話が早いかもな。
頭を切り替え、あー柿ピーは美味いなぁとか思っている矢先、何者かが俺にぶつかり、ドンッという小さな衝撃と共に持っていた柿ピーが袋もろとも宙に舞った。
「あーっ、俺の柿ピー!」
無情にもばらばらと床に落ちる柿ピー。
あーもったいないなどと悲しんでいると、足元から女の子の声が聞こえる。
「……いたたたた。あわわわわ、すみません!これ弁償します!」
俺にぶつかってきた女の子だ。
金髪で少し幼く見える彼女は床に片手をつき、もう一方の手で肩を抑えていた。
質素な鎧を纏っているが、この子も冒険者か?
「おいおい、この兄ちゃんにちゃんと謝れよー。ていうか、この兄ちゃんさっき無職のくせに蒲田さんのとこに仲間入りを懇願してた奴だぜー!」
まったく知らない変な男に俺が無職だということを馬鹿にされた。
また職の話かよと心底うんざりした。
状況から察するに、この床に手をついている女の子はこの変な男に突き飛ばされたんだろう。
何か泥棒でもしたのだろうか。
変な男は続けて彼女に罵声を浴びせる。
「誰がお前みたいな女勇者と組むんだよ。女の勇者なんて強いわけがねぇ。お前みたいな弱そうな奴は、そこの無職と組んでたらいいんだよ!分かったら二度と俺に話しかけてくるな!」
そう言い残し、変な男は立ち去っていた。
ほう、この子が勇者とはな。
ギルドでは交渉次第でこういう事があるんだなと心にとめておいた。
俺はせっせせっせと床にばら蒔かれた柿ピーを集めていると、横から女の子のすすり泣く声が聞こえる。
「よく分からんが、これはそんなに高いものじゃあないと思うからあまり気にしないでいいぞ。多分君でも弁償できる範囲だ(キリッ」
俺が彼女を擁護すると、耳に入っていないのか返事ではない言葉をぽつりと発する。
「私、勇者に向いてないのかな……」
かなり落ち込んでいる様子だ。
神妙な雰囲気を感じとった俺はその話題に乗っかる。
「ここでは女の勇者は弱いのか?」
「ううん、そうじゃないと思うけど分からない。私は唯一の女勇者だから。私だってみんなを守りたい。さっきの人の言うとおり今は弱いけど、女だからって強くなれないことはないと思うけど……。もう勇者やめようかな……」
「女だからといって強くなれないなんて誰が決めたんだ?勇者とは力の強さじゃなく心の強さだ。俺が認めた勇者はただ一人。お前より幼き少女だったぞ」
「えっ?」
「だから、自分を否定することはない。ありのままでいいじゃないか。俺も強い勇者を探していたところだ。繋ぎでよければ俺が仲間になってやるか?」
俺の言葉を受け、彼女は目に溜めた涙を拭い立ち上がった。
「いいんですか?私女勇者ですよ?」
「ん?あぁ、構わん。ただし柿ピーは弁償してもらうぞ」
「じゃあそのぶんのおかねをはらうのでなかまになってください!」
あの日、魔王に平和を求めてきた幼き少女の勇者の姿と、目の前の女勇者の姿が何故か重なった。
運命の巡り合わせとはこの事か。
これが生涯二度目の勇者との出会いだった。
いや、厳密にいうと三度目ではあるが、それはまた後の話だ。
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