第5話

 ひどく息苦しい。

 久しぶりなだけで、ここまでキツイとは思わなかった。

 慣れないことはするものではない。

 だが、それなら、初めての事はいつやればいいんだろうか。


 橋を越えると、そこには黒い世界が広がっていた。

 彼は必死で逃げていた時には意識していなかったが、橋を境界にしているかのように緑と黒が分断されていた。

 そして、目の前では恐るべきスピードで銀色の箱が走っていた。

 それは、彼が追いかけられていると思い込んでいたもの。

 しかし、周囲の人々はその隣を気にする様子もなく歩いている。談笑している者までいる。

 何が起こっているというのだ。

 彼は観察することで精一杯だった。

 静かな森の中では彼の姿を見ただけで話す者はいなくなり、窓まで閉めて警戒していたというのに、橋の向こう側では個人の力を遥かに超えたものが跋扈しているという現実を許容できていない様子だった。

 村の人が彼を恐れていたのはここから来たかもしれないからか?

 脳内で一つ仮説を作り上げたところで、

「この光景が、私たちが恐れているものです」

 彼の思考を確たるものにする事を女性は言った。

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